クレア・ノース『ハリー・オーガスト、15回目の人生』(角川書店)
The First Fifteen Lives of Harry August,2014(雨海弘美訳)
カバーイラスト:高橋将貴、カバーデザイン:國枝達也
クレア・ノースは1986年英国生まれの作家。16歳でキャサリン・ウェブ(本名)名義『ミラー・ドリームス』を出版してデビュー(ファンタジイ作品、邦訳もある)、以後ヤングアダルトや、ケイト・グリフィン名義のファンタジイを20冊近く出してきた。本書はその中でも、最も高評価を受けた作品である。2015年J・W・キャンベル記念賞を受賞、A・C・クラーク賞最終候補ともなっている。
ハリー・オーガストは1919年に英国の田舎に生まれ、大戦前後の混乱期を生きて、21世紀を迎える前には死ぬ、おおよそは。しかし、オーガストの生涯は1度だけではないのだ。記憶を保持したまま何度も同じ生涯を生き直し、記憶を利用することで人生を変えることができた。だがある日、彼は自分が生きる未来が滅亡の危機に曝されていることを知る。
ケン・グリムウッド『リプレイ』でおなじみの、ループする個人の人生に焦点を当てた小説は、日本でもアニメ等で多くの派生作品を生み出してきた。本書のユニークなところは、人生が丸ごと繰り返され、その目的が明確にされていること、同じ能力を持つ限られた人々(カーラチャクラ)が、社会の陰に隠れ歴史に干渉しないよう活動を続けていること(私設タイムパトロール)。史実が大きく変貌すると、彼らの記憶に価値がなくなるからだ。ここに、意図的に未来を変貌させようとする敵が現れる。
半ば以降は、未来を守ろうとする駆け引きがメインの物語となるが、はじめは謀略がらみだった主人公オーガストと敵役との間に、不思議な友情関係が生まれていく経過が面白い。
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