『自生の夢』は日本SF大賞史上初となる、同一著者2度目の受賞作品となった(1度目が第26回『象られた力』、2度目の第38回が『自生の夢』)。本書はこれを契機に、初期作品集+解説(作家・作品論)、エッセイ類+インタビュー、受賞挨拶等を集成したハイブリッド作品集である。このうち分量的に半分は6作の初期短編が占める。これらのプロ書籍への収録は今回が初(『星窓』が入っているが『自生の夢』収録のremixed
versionではなく原型版である)。過去にファンジンに寄せた、著者自身による解題も併録されている。
第1部では、デビュー作となった「ポリフォニック・イリュージョン」(1982)、著者自身が異色作とする「異本:猿の手」(1983)、著者の根源的関心に対する萌芽が見られる「地球の裔」(1983)、はじめて読者の反響を得た「いとしのジェリイ」(1984)、それを発展させた「夢みる檻」(1986)、ボブ・ショウのスローガラスをイメージした「星窓」(1988)を収める。第2部では、著者に多大な影響を与えた『マインド・イーター〔完全版〕』の解説「人と宇宙とフィクションをめぐる「実験」」(2011)、野尻抱介の作家論ともなった「SF散文のストローク」(2004)、『クリュセの魚』を分析した解説「火星への帰宅」(2016)、独自の解釈で迫る「『シン・ゴジラ』断想」(2016)などを収める。第3部では、ファンジン科学魔界(著者も会員だった)掲載の巽孝之らとの座談会「レムなき世紀の超越」(2006)、佐々木敦による「飛浩隆Eメール・インタビュー」(2009)、香月祥宏によるインタビュー「読者の心に歯形をつけたい」(2008)などを収める。
20世紀に書かれた著者の上記6作を含む中短篇10作は、SFマガジンに掲載後書籍にまとめられることはなかった。それが、世紀末/初の2000年から01年にかけて『神魂飛浩隆作品集全3巻』としてファン出版される。自費出版ならともかく、現役プロ作家の作品集(事実上の全集)をファンが出すケースはあまりない。それだけ、地域のファンに親しまれた作家だったといえる。著者は当時10年近く沈黙しており、これらを商業出版できる見込みはなかったのだ。とはいえ、そういう形での活性化が、長編『グラン・ヴァカンス』(2002)や、既存作を加筆修正した短編集『象られた力』につながっていく。
第2部には「私の最上の作品と肩を並べるか、見方によっては凌いでいる」(著者まえがき)とまで書く解説(作家論・作品論)が収められている。著者の評論は独特で、読んでいるとまるでTEDのプレゼンを聴いているような気分になる。目の前で直接語られ、読み手側に高揚感が生まれるのだ。これが著者の言う、作家ならではの視点なのだろう。この他に自治労関係の機関紙やWebに掲載された書籍紹介エッセイ、帯の推薦文、日本SF大賞の選考委員だった際の選評が掲載されている。第3部は上記インタビュー類の他では、受賞挨拶や物故作家に対する弔文が含まれている。
本書の体裁は、まるで「生前遺稿集」のようだ。寡作な著者が書いた細々とした短文まで網羅されているので、よけいそう見えるのだろう。とはいえ、読んで見ると現在の飛浩隆と直結する発言や、近いうちに(?)書かれるであろう次回作を暗示する、動的/流動的な部分も感じられる。本書は遺稿ではない、マイルストーンなのだと納得できる。