このシリーズはテーマ別ではあるが、読んでいく上での違和感が生じないように、作品の時期や並びまで配慮されている。初めての読者や、未読作品を整理したい人には好適といえる。
今回はショート・ショート集。著者のショート・ショートは多くない。本書も、前巻と同様、初期の時代(1960年から76年ごろ)の作品が中心となっている。
全62編、家族ファンジンNULL(今で言う個人誌だが、活版刷、表紙はビニル貼で、1冊出すのに給与の大半を費やすほど豪華なものだった)に発表した作品が12編で、もっとも多い。時期的には60年から62年、著者の事実上の原点に位置する。内容も奇想SFの極みといってよいだろう
(たとえば「衛星一号」とか「到着」)。本書のアイデアは、今日の関西若手ホラー作家の発想とも共通するように思える
(たとえば「池猫」は、田中啓文の『水霊ミズチ』)。NULL以降、科学朝日、団地ジャーナル等が主な発表媒体で、66年より後のものは、短編の代わりに2、3編まとめて掲載されたものが多くなる。ショート・ショートが目新しかった時代は、70年あたりで終わっているからだ。実際、本書を読んでも、短編との違いがあまり大きく感じられないものが多い。著者にとって、その移行はシームレスなものだった。
最近作にショート・ショートはほとんど見られない。そのアイデアは『天狗の落し文』に、断片として凝集されている。
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