SFマガジン50周年アンソロジーの第2巻目。今回のテーマは時間であるが、編者の大森望は既に『不思議の扉』などの時間アンソロジイを編んでいる。これらと、中村融『時の娘』などの既存アンソロジーと被らないために、あえてロマンス色を薄めたという。ただ、本書には23年前に新潮文庫から出た『タイム・トラベラー』(1987)から、表題作とスチャリトクル「しばし天の祝福より遠ざかり…」が転載されている(編者は浅倉久志、伊藤典夫らと編集に携わった)。過去に対するオマージュである点で、これも1つの“時間テーマ”となっている。
テッド・チャン「商人と錬金術師の門」(2007):バグダッドの商人が秘匿する時の門にまつわる物語
クリストファー・プリースト「限りなき夏」(1976):時間凍結された恋人を見守る男の運命
イアン・ワトスン&ロベルト・クアリア「彼らの生涯の最愛の時」(2009)*:最愛の女性を知った男の旅
ボブ・ショウ「去りにし日々の光」(1966):光が通過するのに10年余の時間を生じるガラスが写すもの
ジョージ・アレック・エフィンジャー「時の鳥」(1985):時間旅行者の見た過去の名所のありさま
ロバート・シルヴァーバーグ「世界の終わりを見にいったとき」(1972):世界の終末を見る時間ツアー
シオドア・スタージョン「昨日は月曜日だった」(1941):月曜日が終わった後に何が行われているのか
デイヴィッド・I.マッスン「旅人の憩い」(1965):戦争から遠ざかるほど時間は早く流れ過ぎる
H.ビーム・パイパー「いまひとたびの」(1947)*:戦死したはずの自分が若い自分の中で蘇える
リチャード・A.ルポフ「12:01PM」(1973)*:1時間の時間ループに閉じ込められた男
ソムトウ・スチャリトクル「しばし天の祝福より遠ざかり…」(1981):閉鎖時間から逃れる人々
イアン・ワトスン「夕方、はやく」(1996):一日が人類の進化した時間と同じだったら
F.M.バズビイ「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」(1974):人生がランダムに流れたら
*:本邦初訳(パイパーのリンク先は1950年代のNBCラジオSFドラマのサイトで、34回に本作が収録されている)
本書の場合、時間物の“オールラウンド”を目指した(重層的な)構成がなされている。チャン/プリースト/ワトスン&クアリア/ショウまでは、時間に翻弄される人間のありさまを描き(時間の無謬性、凍結した時間、逆転する時間、遅延・蓄積する時間)、エフィンジャー/シルヴァーバーグ/スタージョン/マッスンまでは、時間の持つ特異性を際立たせ(史実と異なる過去、お互い矛盾した未来、孤立した時間、時間流の不均一性)、一転、後半は書誌的な時間物の原点を探る、パイパー/ルポフ(同じ人生を生きなおすリプレイもの、時間ループものの最初の作品)を挟み、さらに複雑化したスチャリトクル/ワトスン/バズビイ(集団時間ループ、人類史そのものがループ、シャッフルされた時間)と続く。比較的シンプルなものから、複雑なものへと展開していく並びになっていて、やはり最初から順番に読むのが正解だろう。
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