SFマガジン50周年記念に編まれた、日本オリジナルのアンソロジーである。主にSFマガジン掲載作を集めたものだが、初訳も含むテーマ・アンソロジーとなっている。今回は「宇宙編」、後「時間編」「ポストヒューマン編」が続く。
アンディ・ダンカン「主任設計者」(2001):ソ連時代にロケット開発責任者だった主任と弟子たちの物語
ウィリアム・バートン「サターン時代」(1995):アポロ計画が継続され、遠くへと宇宙開発が続く未来
アーサー・C.クラーク&バクスター「電送連続体」(1998):物質伝送下の世界で宇宙飛行士の職務とは
ジェイムズ・ラヴグローヴ「月をぼくのポケットに」*(1999):少年時代に手に入れた月の石の行方
スティーヴン・バクスター「月その六」(1997):月着陸船の乗員は、そこが別世界であることに気がつく
エリック・チョイ「献身」(1994):火星探査チームが陥った危機を救う意外な方法
アダム=トロイ・カストロ「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」(1999):エイリアンと呼ばれた少年は宇宙を目指す
*初訳
日本や欧米の視点から見れば、アポロ以降の宇宙開発は明らかに勢いを失って見える。日本の宇宙予算も、3分の1強は情報収集衛星(偵察衛星)という軍事予算に使われている。たまたま国民的人気となった「はやぶさ」などは、あくまでも例外だ。そのためか、本書に収録された作品は、どれも輝かしい明日を描いてはいない。半分はありえたかも知れない未来(「サターン時代」)、並行宇宙(「伝送連続体」「月その六」)を描き、重圧を撥ねかえさなければ何も得られず(「主任設計者」「月をぼくのポケットに」)、ついに実現した火星探査には、大きな困難が待ち受けている(「献身」「ワイオミング…」)。最後の表題作はちょっと変わっている。容貌がグレイ型のエイリアンと似ていることから差別されてきた主人公が、宇宙開発に消極的な政府を動かすまでに成長する物語。現代風にデフォルメされたアメリカン・サクセス・ストーリーといった趣きだ。
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