『終末の海』(2005)で第5回(2003)日本SF新人賞佳作に入選し、その後《屍竜戦記シリーズ》で話題を呼んだ片理誠の書き下ろし長編である(9月刊)。
目覚めると、少年は学生服姿で〈見えざる小人の国=CL〉にいた。そこは巨大な電脳空間で、人類のすべてをダウンロードする予定だったのだが、使われているのは40万区画のみ。しかし、そこでシステムを揺るがすエラーが発生し、修正のためにはシステム管理者の持つ10個のキーが必要となる。キーを得るためには、40万個の部屋をすべて探索しなければならない。少年の旅がいま始まる。
有毒植物に侵された区画、騙し絵の区画、人を寄せ付けない要塞、円環状に連なる列車、宗教芸術が連なる区画、謎の詩を解明しないと進めない区画、月へと飛ぶ骨董品のロケット、推理ドラマの演じられる区画、脱出のためにゲームを強いられる迷宮、膨大な書庫をさまようゲームブックの区画、そして、最後の区画。さまざまな趣向で各章が読めるところが、本書のポイントだろう。少年とシステム管理プログラム(妖精の姿をしている)との掛け合いと、複雑な世界との対比も面白い。
また、本書は冒頭に『ガリヴァ旅行記』からの引用を置いている。『ガリヴァ旅行記』は小人国や巨人国などの童話で有名なエピソードの他に、ヤフーの登場する“逆転の国”のお話が含まれている。本書のベースがここにあることは注意する必要があるだろう。
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