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徳間書店版自選短編集(全6冊)も完結したので、昨年11月に出た新潮社版自選傑作集(全4冊)についても触れる。収録作品(全35編)は以下の通りである。
最初の2冊はドタバタ傑作集、後の2冊はホラー傑作集である。どちらも1巻目には、ほぼテーマに沿った作品が、2巻目には定石を外した作品が収められている。たとえばドタバタ篇、時間だけが急に速く進む世界「急流」、でたらめ凶悪な医師たち「問題外科」から(第1集)、事故で浸水し傾斜していく海上都市で、断固事実を認めない女性市長を描く「傾いた世界」(第2集)。ホラー篇では、不気味な相撲取の追跡者「走る取的」や究極のマゾ小説「乗越駅の刑罰」、生理的嫌悪を誘う「顔面崩壊」から(第1集)、断片的に語られる殺伐とした階層世界「驚愕の荒野」(第2集)と、後半に進みほど、テーマの既成概念を大きく超えた作品が選ばれている。この時期の筒井康隆は、アイデアと実験的要素がシームレスに混交している。それだけ、奥行きがはかり知れなく見えるわけである。 ホラー篇の『最後の伝令』から採られた作品は、元の短編集自体“死”をテーマとしているため、ちょっと異質に感じるかもしれない。普通、ホラー小説を読んでも、自分の死を意識したりはしないのだから。何に近いかというと、全盛期のブラッドベリのファンタジイ『10月はたそがれの国』に似ている。ブラッドベリにあった、死と隣り合わせのロマンティシズムが本書にもある。 この4冊の短編の出典は以下の通りである(カラー部分が70-80年代)。徳間版(約10年間)に比べ、収録作の間隔が20年と広くなっている。熟成期となって、単行本の刊行ペースが下がってきたせいもある。
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3月に出たホラー短編集。それにしても、あまりに多彩な書き方である。
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著者の『時間旅行者は緑の海に漂う』(1995)の翻訳が出てからすでに6年が経っているが、本書の印象は同作と変わらず、オリアリー調の現実崩壊感をさらにパワーアップさせているようだ。 冒頭の1962年、少年だった兄弟(主人公)が、ミシガン州のとうもろこし畑でUFO(のようなもの)を目撃し記憶が途切れる。2000年、成長した兄は、南米でCMロケ撮影中にまた記憶の途切れを経験する。気が付くとLAに戻っており、得体の知れない政府の調査官から、弟の秘密調査を依頼される。弟は大学の準教授で妻を事故で失い、息子と呆然と暮らしている。そこにも奇妙な依頼が舞い込む。息子の安全を確保したければ、兄を探し出せと。そして、彼らは2つの集団が争う、現実とそっくりだが“1点が”大きく異なる世界へと迷い込んでいく。無数に舞い飛ぶハチドリをキーに存在するその世界は、実在なのか幻覚なのか。 直喩なのか隠喩なのか分からないというのも、オリアリーの書き方の特徴だろう。まるでエイリアン・アブダクション(拉致)小説のようであるが、それは比喩に過ぎないのかもしれない。本書で描かれるのは、屈折した兄弟の確執と和解の物語であり、生きていくことと死とのシームレスな関係である。 ただ、本書のあらすじ(裏表紙)は、一部“解釈上のネタバレ”(作中に直喩的に書かれてはいる)を含むため、本当は書かなかったほうがよかっただろう。 著者は兼業作家であるせいか、作品数はさほど多くない。詩作を公式サイトで読むこともできる。
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折紙つきの小説というのか、小説つきの折紙というのか(体裁は後者に近いですね)。 1冊あたり100ページ足らず(中篇1作程度)ながら、動物をモチーフに、著者の中短編を6分冊で編んだコレクションです。当然こんなスタイルは他になく、流行の企業用語で言えばオンリー・ワン商品。4月、5月分の4冊が出た時点で、まず読んでみました。 地球を訪れた異星人によって改造される部屋(カメの水槽になるのです)、光速宇宙船に情報として搭載された人々(なぜか、カメに収容されてどこかに送られようとしています)、職場にやってきた異星人の機械(夢見ることが仕事になります)、巨大トンボが見えるメガネ(機械に憑いたトンボのせいで故障が発生するのです)、ライバル企業が異星人の力を借りて圧勝(対抗してあなたの会社は、お化け西瓜の力を借ります)、演劇を目指した主人公が迷い込む螺旋階段(望みがかなう階段、しかし出口はありません)、演劇にまつわる4つの都市伝説、狐にだまされた2人の男たち(いや、本当に2人なのか)、 遺跡で発見された東京タワーがあった都市の情報(主人公は、そこに潜入します)、だれからも見えない蛇と住む少年(蛇はだんだん巨大化します)、アポロ宇宙船の月着陸と、学校の裏庭に出る化け猫の関係(それは、ほんとうのことなのか、嘘なのか)。このほか、どうぶつと季節(1年間毎月)にちなんだショートショートと、未来の地球に住む改造生物たちの生活を、主人公のカメリ(雌ガメ)を通して描いた連作短編(書き下ろし)が収録されています。 最初の2巻は、北野勇作独特の、破滅的でありながら、楽天的に読めてしまう世界が描かれています。著者の世界の執拗さ(同一モチーフのリフレイン)が味わえます。3巻目はホラー短編集に収められたもの。同じ世界観ながら、視点が“楽観”からちょっと外れています。4巻目に至って、ノスタルジー的といわれる著者の世界(ゴジラに破壊される東京タワー、アポロ11号の時代)に、もう少し踏み込んだ作品を読むことができます。ショートショートのバランスもまずまずで、全体のトーン(何といっても折紙つきの本)を崩さない工夫が見られ、楽しめると思います。まあ、1冊だけでは半日(朝の通勤)で読めてしまうので、2冊ずつ刊行という現状が適当では。
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