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神林の短編集としては、『時間蝕』(1987)以来16年ぶりになる。もちろん、その間何冊かの連作短編(事実上の長編)は書かれているのだが。一番古い「抱いて熱く」(1981)から「意識は蒸発する」(書下ろし)まで、20年分の時間が凝集された作品集となっている。
昨年7月に出た『戦闘妖精・雪風 解析マニュアル』(早川書房)は、アニメ版雪風についてだけではなく、神林長平のテーマを含めた作家論、全作品の解題、リスト等を含む評論集でもあるので、作者に興味のある方はこちらの入手もお勧めする。
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ミステリ分野では既に定評のあるランズデールのSF風ホラーである。もともとノンジャンルの作家なので、特にSFを狙って書かれた訳ではない。でもこれ、何に似ているかというと、たとえば津原巧『DOOMSDAY−審判の日−』とか、浦浜圭一郎『DOMESDAY』とか、本末転倒かもしれないが、このあたりの新人のSFと似ている。実際は逆だと考えれば、分かりやすい。 とある田舎町にある巨大なドライヴイン・シアター《オービット》、そこでは毎週金曜の夜にB級ホラー映画がオールナイト上映されている。主人公たちハイスクールの仲間も、深夜の一騒ぎを目的に乗り込むが、突如シアター全域がドーム状の物体に覆い尽くされる。最初は落ち着いていた人々は、やがて正気を失い、奇怪な稲妻に打たれた仲間は、異形の怪物へと変貌を遂げ…。 設定で予想される通り、ドーム内部ではサバイバルというより、いわゆるスプラッタが展開されるのである(その点から言っても『漂流教室』ではない)。ホラー映画上映中にホラーが現実化する皮肉、登場人物もお上品な人種ではないので猥雑な印象を残すが、さすがに破綻なく物語を収めたところは立派かも。作者の嗜好そのままのパルプ・フィクション。続編あり。
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2001年に出たキングの長編を4分冊で刊行したもの。ワーナーから公開される映画に合わせた出版でもある。 メイン州の深い原生林、狩猟を目的に別荘に訪れた4人の旧友たちは、そこで奇妙な遭難者と出会う。彼らは考えられないほど遠くで道に迷い、異様なほど体調を崩し、“黴”を生やし、歯が失われていて、エーテルの臭いのする放屁をする。やがて、膨れ上がった腹からは…。一方、地域を封鎖した政府秘密機関は、一帯を汚染区域として隔離、感染者の“処置”に動く。 登場するエイリアンは『トミーノッカーズ』以来お馴染みのものだし、5人(4人+1名)の男たちの友情は『IT』のようでもある。超能力による救出劇は、キングの主な作品では日常茶飯。というより、キングの諸作に親しんでいる読者にとって、本書は安心できるオールスターキャストとも、新味に乏しいマンネリともいえるのである。唯一、運命と友情のつながりをドリームキャッチャーで象徴した点が、新鮮かもしれない。 ちなみにドリームキャッチャーとは、悪夢を捕らえてくれるインディアンのお守り。日本ではキムタクのドラマ「ビューティフルライフ」(1999-2000)で有名になった。映画に登場するのは、もっと大きく禍々しいものだが。
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著者のこれまでの作品の多くは、裸電球で照らされたような世界を舞台にしている。たとえば、裏町の路地の奥で、街灯が照らすほんの小さな地面といった場面(そのわずかな空間以外は闇の中だ)。地下世界を描くファンタジイ
『ネバーウェア』(ニール・ゲイマン)のようでもある。そういう意味では、ほんの半歩スタンスを変えるだけで、ホラーにもなればSFにもなる。 主人公はゲームソフト開発会社に勤めている。友人から試用を依頼されたソフトは、異様なまでにリアルな現実を描き出している。いつの間にか、彼の生きている世界とゲーム世界との境界は曖昧に熔け去っていく。キーワードは“ハグルマ”。ハグルマとは、遥か古代に絶滅した生命であり、肉体の奥に寄生虫のように潜む何ものかであり、思いを成就させる呪文の言葉である。 ゲームと現実との区別が見えなくなるという設定は、むしろ当たり前にすぎる。だが、北野勇作が描くと、逃れようのない泥沼に見えてくる。落ち込んだ沼の底に、また沼が姿を現して、果てしがなくなる。今回は、“現実”(ところどころに散見される、ヤクザ/恐喝/殺人/刑事/不倫といった生な設定さえ)が細分化され、シャッフルされるのだ。
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恒例となった、日本SF大賞(第23回)と日本SF新人賞(第4回)の特集号。SF大賞の『アラビアの夜の種族』、『傀儡后』については別記しているのでそちらを参照。 今年の新人賞受賞作家は、大阪の豊中在住。なぜか、この世代のSF/ホラー系作家の多くは阪神間に住んでいる。今年から選考委員も一新され、委員長には筒井康隆が就任、例年より厳しい評価を下している。その中で、委員長から最終候補作中唯一“Bランク”(水準以上)を得た、三島浩司『ルナ Orphan's Trouble』が受賞作となった。 太平洋上で発見された高分子で形成された“塊”は、探査船の乗組員を呑み、いつしか日本列島を環状に取り囲み航路を遮断する。環状物体“悪環”が放出するウィルスは、致死性の病だけでなく、肉親忌避現象(表題に相当)まで生じさせる。非常事態が引かれ治安が乱れる中、人々はむしろ野放図に生きてゆく。舞台は、電力やガソリンが制限された大阪の闇市。ウィルスを消滅させようとする科学者と妹、鍵を握る少女ルナと少年、闇市のテキヤなど、多彩な人物が登場する。 こういう作品の場合、常に小松左京(『日本アパッチ族』、『日本沈没』等)との比較がなされる。「小松よりスケールが小さい」とか「社会全体が描けていない」、「破天荒さに欠ける」と批判される。戦後闇市の“現実”から始まって、日本文明そのものが一切滅びてしまうという『日本アパッチ族』は、発表年が1964年であったがために(本当にこうなって欲しいという)リアルな熱気を孕んでいた。しかし、失うべきものを持ちすぎた現在、もともとの意味での現実味を失っている。社会的なテーマを、客観的に比較するのは困難なのだ。 『ルナ』の描く世界は、今日の社会状況に制約されている。その前提で、インフラ破壊による変容の描写を、個人の視点に絞った点は評価できる。選評に見られる、お話自体の出鱈目さ(矛盾点と不整合)も改善されているようだ。
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