河出書房新社《奇想コレクション》叢書の最後の一冊である。1つ前の『平ら山を越えて』から、ちょうど3年ぶりの完結となる。そもそも本書が3年前に出ていれば、『ビブリア古書堂の事件手帖3』(2012)のエピソードでヤングは取り上げられず(当然、TVドラマで剛力彩芽が語ることもなく)、話題の盛り上がりに欠けたかもしれない。本書のような、タイム・ロマンスものには、むしろ相応しい展開なのだろう。
「特別急行がおくれた日」(1977*):毎日繰り返される、蒸気機関車が引く特別急行列車の日常 「河を下る旅」(1965):誰もいない河を、筏で下る一人の男と途中から乗った女との出会い 「エミリーと不滅の詩人たち」(1956):博物館に設けられた、不人気の詩人エリアを担当する女の機転 「神風」(1984*):宇宙戦争必勝のために、自爆攻撃を命じられた男の運命 「たんぽぽ娘」(1961):休暇中の中年男が森で出会った少女は、自分は未来からやって来たと自己紹介する 「荒寥の地より」(1987**):昔住んでいた土地から見つかった、封印された箱に隠されていたもの 「主従問題」(1962*):発明家が偶然発明した装置は、村一つをもぬけの殻にした 「第一次火星ミッション」(1979*):少年たちの作ったロケットがたどり着く火星の光景 「失われし時のかたみ」(1973):奇妙な部屋の中には、彼のあらゆる過去が展示されていた 「最後の地球人、愛を求めて彷徨す」(1973*):戦争から帰った男は、自分が最後の地球人だと思い知る 「11世紀エネルギー補給ステーションのロマンス」(1965):時間旅行途上で訪れた場所で時が静止していた 「スターファインダー」(1970*):宇宙クジラを宇宙船に改造するドックで、意志疎通した男の聞いた声とは 「ジャンヌの弓」(1966):フランス系植民惑星を制圧する軍は、ジャンヌの活動を阻止しようとする
*初訳 **遺作
ロバート・F・ヤングの翻訳書は、昨年まで2冊しか出ていない。1977年に出た日本オリジナルの短編集『ジョナサンと宇宙クジラ』と、同じくオリジナル編集の1983年『ピーナッツバター作戦』だけである。一般読者に、ほとんど知られていないのだ。しかし、1967年に「たんぽぽ娘」(メリル編『年刊SF傑作選2』)が紹介されて以来、ファンの間では知名度が高かった。時間ものを書く作家の多くと共通する特徴として、ヤングにも描いた時代に対する愛着が感じられる。時代を超越しているように見えても、半世紀近くを経た各作品からは、著者が生きた(1915-86)アメリカが透けて見えるからだ。詩人が自動車に押しのけられ、浮浪者たちが田舎を汽車で旅していた頃、子供たちのロケット遊びや、人生を象徴する過去の展示物。そのクラシックな舞台を背景にして、人生の河を描くロマンス(「河を下る旅」)、時を超えたロマンス(「たんぽぽ娘」)が描かれている。そういう意味で、他愛のない/臆面のない筋書きでありながら、ヤングの情感には著者独特の本当らしさがある。
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