2011年の年刊日本SF傑作選である。例年通り、第3回創元SF短編賞受賞作を収録している(応募総数618編と昨年を上回る盛況)。これを含め、本書自体も前年を4作も上回る18編が収録されている。
小川一水「宇宙でいちばん丈夫な糸」:軌道エレベータを巡る連作「妙なる技の乙女たち」(2008)の前日譚
庄司卓「5400万キロメートル彼方のツグミ」:小惑星に取り残された人工知能の回収計画(はやぶさ)
恩田陸「交信」:わずか1ページの、はやぶさに対する賛歌(はやぶさ)
堀晃「巨星」:小松左京が創造したSSとの壮大な出会い(小松左京)
瀬名秀明「新生」:岬の灯台で出会った女との運命的な邂逅(小松左京)
とりみき「Mighty TOPIO」:3.11後に活動したもう一つのアトムの記録(3.11、小松左京)
川上弘美「神様2011」:パスカル短編文学新人賞デビュー作「神様」(1994)を3.11後に再話する(3.11)
神林長平「いま集合的無意識を、」:30年来SF作家を続ける主人公のモニタに現れた存在(伊藤計劃)
伴名練「美亜羽へ贈る拳銃」:意図的に感情を改変した女性を愛することはできるのか(伊藤計劃)
石持浅海「黒い方程式」:脱出不能の密室状態で、ある夫婦がとった行動(冷たい方程式)
宮内悠介「超動く家にて」:出口のない宇宙船を舞台にした、本格密室ミステリの結末とは
黒葉雅人「イン・ザ・ジェリーボール」:殺人事件を巡る、異種族同士の矛盾した証言
木々津克久「フランケン・ふらん」:同題連載コミック(2006〜12)の1編、“妹的生命体”が登場する
三雲岳斗「結婚前夜」:婚約者の住む世界に去ってしまう娘との最後の一夜
大西科学「ふるさとは時遠く」:時間の流れが異なる、遠いふるさとへの旅
新井素子「絵里」:誰もが子供を産まなくなった未来
円城塔「良い夜を持っている」:超記憶力を持った父を回想する息子
理山貞二「すべての夢|果てる地で」(SF短編賞受賞作):直交する2つの世界、侵攻するフィクションの物語
はやぶさの帰還(10年6月)、3.11の震災、小松左京の死(11年7月)と、2010年から11年にかけて、さまざまな社会的大事件が起こった。その波紋の中から、新たな作品がいくつも生まれている。伊藤計劃の死は2009年のことだが、その影響はまだ広がり続けている。本書では、そういった関連作品(「Mighty
TOPIO」、「神様2011」、「いま集合的…」)、オマージュ(「巨星」、「新生」)、トリビュート(「5400万…」、「交信」、「美亜羽へ…」)が半数を占めている。ミステリタッチの3編(「黒い方程式」、「超動く家にて」、「イン・ザ…」)も、それぞれ広義の元ネタから影響を受けた作品と看做せるだろう。円城塔の芥川賞受賞は、2012年の出来事なので、本書の範囲から少し外れている。収録元は、「SF
Japan」最終号から2編(「イン・ザ…」、「結婚前夜」)、同人誌(「美亜羽へ…」、「超動く家にて」)、2011年は電子書籍元年と呼ばれたこともあり、初の電子雑誌(紙媒体を持たない「アレ!」から「巨星」、「新生」)等、ソースを幅広く分散させているのが特徴だ。
さてしかし、最大の注目はSF短編賞の受賞作である。量子力学をベースに、さまざまなSFに対するリスペクトを鏤めるなど、本書を代表する傾向をすべて内在しているからだ。結末がそのまま2011年を象徴する終わり方になっているというのは、ちょっと出来すぎではないか。
|