2012年の年刊SF傑作選である。範としていた、筒井康隆編の《日本SFベスト集成》と並ぶ6冊目になるという。2008年スタートなので、ちょうど5年が経過したわけだ(最初の年に2年分が出た)。ただし、筒井版は、もともとSHINCONタイアップ企画として、1975-76年の2年間に一気に6冊が出るという変則的なものだった。年刊傑作選としては、こちらのほうがより正統な出版形態(毎年1回)なのだ。
宮内悠介「星間野球」:老朽化した宇宙ステーションで、交代順を決めるため「野球盤」で勝負する2人の男
上田早夕里「氷波」:土星の輪で起こる波状の現象を探るため、一人の人工知能が基地を訪れる
乾緑郎「機巧のイヴ」:江戸時代、本物と見分けのつかない、からくりを作る男が受けた依頼の顛末
山口雅也「群れ」:人が何らかの指令を受けて一斉に動くとき
高野史緒「百万本の薔薇」:旧ソ連時代、書記長の死に捧げる薔薇を探す主人公が農業研究施設で知ったこと
會川昇「無情のうた」:未来の戦後を舞台とした安吾捕物帖ベースのミステリ、アニメ「UN-GO」第2話脚本
平方イコルスン「とっておきの脇差」:得体のしれない決闘に向かう女たち(コミック)
西崎憲「奴隷」:奴隷制度がシステム化された社会で、主人公は新しい奴隷を買おうとする
円城塔「内在天文学」:天体観測における認知的ニッチとは何かを探る一編
瀬尾つかさ「ウェイプスウィード」:惑星の海を支配する、渦を成す巨大な藻の正体とは何か
瀬名秀明「Wonderful World」:人の倫理観をシミュレーションすることで、未来が予測できるようになる
宮西建礼「銀河風帆走」:第4回創元SF短編賞受賞作。悠久の時空を飛ぶ宇宙機の物語
昨年は、日本SF作家クラブ50周年の関係で、一般小説誌がよくSFの特集を組んだ。そのため、本書も専門誌(SFマガジン)からの収録は「ウェイブスウィード」のみで、他は「小説現代」から2編、「小説野生時代」、「小説新潮」、「読楽」(旧「問題小説」2012年1月号から誌名変更)から各1編となっている。それ以外は単行本から選ばれている。ただ、これらの作品は専門誌掲載作と比べても、全く違和感がない。(今さら言うことでもないが)各誌の読者層も、変わってきているのだろう。中では、「機巧のイヴ」の意外な展開、「奴隷」の透き通った狂気の世界(『アサイラム・ピース』のようだ)、「銀河風帆走」は主人公が機械という「夜のオデッセイ」(1965)を思わせる作品で、それぞれに印象が深い。また、短編賞の応募総数は576編、最高だった昨年比で一割減程度だが、一昨年並みの応募数だった。この賞は、例年本格コアに近い作品が受賞する傾向があり、本年もまたSF以外の何物でもない作品が選ばれたといえる。
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