SFマガジンは2010年2月号で50周年を迎える(1959年12月に出版された2月号が第1号にあたる)。それを記念して、海外編1月号、国内編2月号の特大号を組む。本誌は新訳12編、再録5編(初出時と翻訳者が異なるものを含むディック、ヴォネガット、ラファティ、ティプトリー、ギブスン)を併せ、500頁を超える翻訳編である。寡作なテッド・チャンの新作や、スタージョンの埋もれた短編、スターリングの皮肉なファンタジー、シモンズの蘊蓄溢れる中編など読みどころは多い。
テッド・チャン「息吹」(2008):閉鎖された世界に住む、機械のような人々の生活と破滅の予感
グレッグ・イーガン「クリスタルの夜」(2008):シミュレーションが生み出した知的生命たちの進化
テリー・ビッスン「スカウトの名誉」(2004):古人類学の学者に届く、過去からのメールメッセージ
ジーン・ウルフ「風来」(2002):中世に退行した社会で、少年は風来人の友と付き合うようになる
シオドア・スタージョン「カクタス・ダンス」(1954):砂漠で行方不明の教授を探す男が見つけたもの
ブルース・スターリング「秘境の都」(2009):死者を蘇らせた男は奇妙な地獄に連れ去られる
コニー・ウィリス「ポータルズ・ノンストップ」(1996):寂れた田舎町を訪れる観光バスツアーの目的
ラリイ・ニーヴン《ドラコ亭夜話》(1977):異星人が常連のドラコ亭を巡る5編のショートショート
アレステア・レナルズ「フューリー」(2007):皇帝の護衛が探し出した暗殺犯の正体とは
ジョン・スコルジー「ウィケッドの物語」(2009):異星人と交戦中の宇宙船が起こした反乱の顛末
パオロ・バチガルピ「第六ポンプ」(2008):環境破壊が進み、技術も失われた未来のニューヨーク
ダン・シモンズ「炎のミューズ」(2007):支配種族にシェイクスピアを演じる劇団一座が得たものとは
50周年を振り返る場合、さまざまな形式が考えられる。回顧風に特集を編むこともできるし、未来への展望を語る形式もあるだろう。本誌の場合、新作はイーガン、ウィリス、レナルズ、スコルジー、シモンズら長編作家と、「奇想コレクション」等の翻訳アンソロジーで話題を呼んだ作家が中心である。再録作品も、ヴォネガットを除けば1980年以降の掲載作だ。その結果、翻訳の今は確かに見えているのだが、50周年の歴史的意義が分かり難くなった。早川書房は、今でも翻訳SFのリーダーなのだから、ビジョンを示す論評が欲しいところだ。
|