大森望編のオリジナル・アンソロジイ『NOVA』の10冊目で、第1期完結(いったん終了)となる。最初の『NOVA1』が出たのが2009年12月だったので、予定通り年3冊(3年7か月/年2.8冊)のペースで出たことになる。(SF短編の掲載機会が減った)最初期と比較すると、一般雑誌にもSFが多数載るようになり、存在意義が薄れたともある(前作『NOVA9』の「編集後記」より)。
菅浩江(1963)「妄想少女」:孤独な中年女性は、ゲーム形式のトレーニングで闘う少女と自分を重ねていた
柴崎友香(1973)「メルボルンの想い出」:オーストラリアで撮影取材中に主人公は奇妙な集団にとり込まれる
北野勇作(1962)「味噌樽の中のカブト虫」:会社の健診で、頭の中にカブト虫が居ると診断された男の困惑
片瀬二郎(1967)「ライフ・オブザリビングデッド」:ゾンビになってもサラリーマンたちは生活を変えない
山野浩一(1939)「地獄八景」:死んだ男がたどり着いた、日本的地獄の光景とその意味とは
山本弘(1956)「大正航時機綺譚」:大正時代、タイムマシンを大ネタに詐欺を企んだ男たち
伴名練(1988)「かみ☆ふぁみ!」:宇宙創成以来のあらゆる可能性を、一瞬でシミュレートできる少女の話
森奈津子(1966)「百合君と百合ちゃん」:近未来、強制的な結婚と人工的な子づくりが義務付けられた日本
倉田タカシ(1971)「トーキョーを食べて育った」:ロボットが暴走し廃墟化した東京、半ば機械となった人々
木本雅彦(1972)「ぼくとわらう」:ダウン症でもある主人公が語る、自分自身の物語
円城塔(1972)「(Atlas)3」:見る間に変化する地形、地図製作者は既に何度も殺されている
瀬名秀明(1968)「ミシェル」:天才音楽家ミシェルは、やがて言語学者となり“SS”との接触に関与する
とりあえず最後なので、収録作家の生年を書いてみた。60年代から70年代にかかる40から50歳代が中心だが、今現在もっとも活躍している世代なので、全巻を通じて目立つのは当然かもしれない。「メルボルン…」はスタージョン「昨日は月曜日だった」のような、現実の間にある舞台裏の世界。「味噌樽…」は表題だけストガルツキー、「ライフ…」は哀感漂うゾンビ、「大正航時機…」、「百合君…」、「(Atlas)3」は著者の持ち味が横溢したユーモアが楽しめる。「かみ☆…」は萌えハードという新機軸、「妄想…」、「トーキョー…」、「ぼくと…」は生き方の物語だ。注目は山野浩一「地獄八景」で、現代的解釈の地獄八景は、落語とは裏腹の妙に論理的な世界として描かれる。著者33年ぶりの小説。もう一作、瀬名秀明「ミシェル」は、「Wonderful
World」の続編でもある。複数の箇所で小松左京に対するオマージュが書かれ、これ自体別視点から成る『虚無回廊』となっている。ただし、あくまでも瀬名流なので、小松SFという雰囲気はあまり感じられない。
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