表紙イラスト:生頼範義(以下同じ)


 5年目に入ったSFアドベンチャーは 、1月で50号となる。この号はかんべむさし特集で、桂枝雀との対談が組まれている(かんべ35歳、枝雀43歳)。この年の第4回日本SF大賞は、大友克洋『童夢』である。

 チェックリスト欄は、 この年から巻中カラーページの冒頭に移った。SFアドベンチャーの場合、カラーページでは科学記事、読者欄、ファンジン紹介、ジョーク記事等が載っており、本文の小説以外を集めた形になっている。

awaybull2.gif (77 バイト)1984年1月から12月までの担当者:
awaybull2.gif (77 バイト)伊藤典夫 ・鏡明・安田均・伊藤昭・大野万紀・野村芳夫・岡本俊弥・福本直美(84年10月から)
 50号収録のレビューは、1983年9月25日から11月10日までの20冊。この年は9月以降パソコン(CP/M86)に移行するため、それまでの岡本分のみpdfファイルで収録した 。

 今月の注目作は、星新一『どんぐり民話館』、W・ゴールディング他『ありえざる伝説』、ヴォンダ・マッキンタイア『夢の蛇』、ポール・プロイス『天国への門』である。

 『夢の蛇』は1988年に早川書房から復刊している。

どんぐり民話館 星新一 新潮社 鏡明
ありえざる伝説 W・ゴールディング他 早川書房 岡本俊弥
夢の蛇 ヴォンダ・マッキンタイア サンリオ 大野万紀
天国への門 ポール・プロイス 早川書房 安田均
お爺さんの宇宙 かんべむさし 講談社 伊藤典夫
真ク・リトル・リトル神話大系6 ラムゼイ・キャンベル編 国書刊行会 野村芳夫
四丁目の決闘 豊田有恒 角川書店 伊藤昭
聖獣の塔(運び屋サム2) 高千穂遙 徳間書店 伊藤典夫
大坂夢の陣 小松左京 徳間書店 伊藤昭
眠り姫にキス! 大和真也 集英社 伊藤典夫
宇宙料理店 津山紘一 集英社 野村芳夫
25時に消えた列車(幻の)黄金超特急1 山浦弘靖 集英社 大野万紀
海外SFショート・ショート秀作選1 アイザック・アシモフ他 集英社 岡本俊弥
すっとび晶子の大跳躍 かんべむさし 中央公論社 野村芳夫
ミステリーゾーン ロッド・サーリング 集英社 岡本俊弥
学園アイドル伝説 草川隆 秋元文庫 鏡明
ホーム・ワールド ハリー・ハリスン 東京創元社 安田均
人形都市 川又千秋 光風社出版 安田均
黒曜石のなかの不死鳥(エレコーゼ3) マイクル・ムアコック 早川書房 伊藤昭
黄金仮面の呪い 志茂田景樹 双葉社 大野万紀


 

 新年号のため都都逸大会特集。83年のファンジン総括も掲載されている。ファンジン掲載作から新人を発掘しようとする試みが、昨年より引き続き行われている。巽孝之はファンジン紹介欄を長年担当、眉村卓、荒巻義雄は創作系のコンベンション(星群祭など)でファン創作の講評を行ってきた。この年は西秋夫(風の翼)。
 
 51号収録のレビューは、1982年10月31日から12月1日までの16冊。

 今月の注目作は、スタニスワフ・レム『泰平ヨンの現場検証』、ジョン・ブラナー編『ザ・ベスト・オブ・P・K・ディック』、リチャード・ルポフ『宇宙多重人格者』。

 ちなみに『宇宙多重人格』レビュー中で『バスルーム』とあるのは、当然ながら『バルスーム』の誤植。


泰平ヨンの現場検証 スタニスワフ・レム 早川書房 鏡明
ザ・ベスト・オブ・P・K・ディック ジョン・ブラナー編 サンリオ 伊藤昭
宇宙多重人格者 リチャード・A・ルポフ 東京創元社 岡本俊弥
恐怖夜話 ガストン・ルルー 東京創元社 安田均
エレンディラ G・ガルシア=マルケス サンリオ 野村芳夫
小人たちの黄金 ジェイムズ・スティーヴンス 晶文社 伊藤昭
奇跡の油彩画 草川隆 朝日ソノラマ 野村芳夫
風の名はアムネジア 菊地秀行 朝日ソノラマ 安田均
モンキー・ハウスへようこそ カート・ヴォネガット・ジュニア 早川書房 岡本俊弥
ピーナツ・バター作戦 ロバート・F・ヤング 青心社 野村芳夫
機械の花嫁 小松左京 勁文社 大野万紀
おれの死体を探せ 小松左京 徳間書店 伊藤典夫
魔海のヘリック 田中光二 光文社 大野万紀
焦熱期 ポール・アンダースン 早川書房 安田均
魔境物語 山田正紀 光風社出版 大野万紀
魍魎伝説3 群霊の章 谷恒生 双葉社 鏡明


 

 この号は特に特集はなく、赤川次郎、笠井潔らの書き下ろしが目玉。
 52号収録のレビューは1983年10月31日から12月31日までの17冊。

 今月の注目作は、 新井素子『・・・絶句』、荒巻義雄『カストロバルバ』、ロバート・ストールマン『野獣の書』、アーシュラ・K・ル=グイン『コンパス・ローズ』の4作。


・・・・・絶句 新井素子 早川書房 安田均
カストロバルバ 荒巻義雄 中央公論社 伊藤昭
野獣の書(3部作) ロバート・ストールマン 早川書房 野村芳夫
コンパス・ローズ アーシュラ・K・ル・グィン サンリオ 大野万紀
今夜の私は危険よ(ウールリッチ幻想小説集) ウォー&グリーンバーグ編 早川書房 伊藤典夫
エイリアン魔獣境(全2巻) 菊地秀行 朝日ソノラマ 岡本俊弥
真ク・リトル・リトル神話大系9 那智史郎編 国書刊行会 伊藤典夫
地球の光と影(エクソシスト探偵4) 田中光二 徳間書店 伊藤昭
パリ吸血鬼 クロード・クラッツ 早川書房 鏡明
顔のない博物館 フィリップ・K・ディック 北宗社 安田均
危険なヴィジョン1 ハーラン・エリスン編 早川書房 野村芳夫
雄牛と槍(コルム4) マイクル・ムアコック 早川書房 鏡明
道化師と神 中島梓 早川書房 大野万紀
銀河の破壊者 セルゲイ・スニューゴフ 東京創元社 鏡明
あぶくの城  フィリップ・K・ディックの研究読本 栗本慎一郎他 北宗社 岡本俊弥
黒真珠作戦 豊田有恒 徳間書店 岡本俊弥
時の侵略者(タイム・パトロールJ・J2) 風見潤 朝日ソノラマ 伊藤典夫


 

 この号の目玉は、筒井康隆の書下ろし(『旅のラゴス』の一部)と大原まり子特集。1983年ベスト特集も掲載されている。
 

 53号収録のレビューは1983年11月30日(11月分は1冊)から84年1月30日までの11冊。

 今月の注目作は、 ステファン・ドナルドスン『破滅の種子(信ぜざる者コブナント1)』、アイザック・アシモフ『アシモフ自伝I』。


破滅の種子(信ぜざる者コブナント1) ステファン・ドナルドソン 評論社 野村芳夫
アシモフ自伝T アイザック・アシモフ 早川書房 安田均
ねじれた教室 北園哲也 秋元文庫 安田均
不器用な戦士たち 眉村卓 講談社 岡本俊弥
筒井康隆はこう読めの逆襲 平岡正明 CBSソニー出版 岡本俊弥
クトゥルーX 異次元の影 H・P・ラヴクラフト他 青心社 伊藤昭
真ク・リトル・リトル神話大系7 S・T・ヨシ編 国書刊行会 野村芳夫
異次元宇宙年代記 松本零士 大和書房 野村芳夫
小説・地球が飢える日 神城和也 JICC出版 伊藤昭
シナリオ版・さよならジュピター 小松左京 徳間書店 岡本俊弥
ブラッドベリは歌う レイ・ブラッドベリ サンリオ 伊藤昭


 


 この号の目玉は、西村寿行書下ろしと、夢枕獏特集。

 54号収録のレビューは1984年1月25日から3月15日まで(魔界水滸伝のみ83年11月まで)の18冊。

 今月の注目作は、 夢枕獏『魔獣狩り』、アン・マキャフリイ『歌う船』(歌う船シリーズ、オリジナルの1冊目)。


魔獣狩り(サイコダイバー1) 夢枕獏 祥伝社 岡本俊弥
歌う船 アン・マキャフリイ 東京創元社 伊藤典夫
魔界水滸伝3,4,5,6 栗本薫 角川書店 岡本俊弥
リーンの翼1 富野由悠季 角川書店 鏡明
悪魔の復活 井沢元彦 角川書店 安田均
タイムトラベルで進化論 豊田有恒+石津嵐+実吉達郎 創拓社 大野万紀
サブウェイ・ファンタム(ゴースト・ハンター2) 塩谷隆志 朝日ソノラマ 鏡明
黄金の竜騎兵 児島冬樹 朝日ソノラマ 安田均
黄色い泉 小松左京 徳間書店 伊藤昭
SFマガジンセレクション1992 早川書房編集部 早川書房 大野万紀
霧の都 ホープ・マーリーズ 早川書房 伊藤典夫
真ク・リトル・リトル神話大系8 S・T・ヨシ+アンソニー・レイヴン編 国書刊行会 野村芳夫
ふつうの家族 眉村卓 角川書店 伊藤昭
雄羊と樫(コルム6) マイケル・ムアコック 早川書房 鏡明
海外ショート・ショート秀作選2 アイザック・アシモフ編 集英社 大野万紀
ムー大陸の至宝1 荒巻義雄 角川書店 伊藤昭
フランケンシュタイン メアリ・シェリー 東京創元社 野村芳夫
トワイライトゾーン ロッド・サーリング 二見書房 安田均

 

 


 この号は創刊5周年記念号にあたり、オールスターキャスト。SF川柳特集やショート・ショート特集など。

 


 55号収録のレビューは、1984年2月25日から3月31日(1冊のみ83年12月)の16冊。

 今月の注目作は4作、川又千秋『幻詩狩り』、神林長平『戦闘妖精・雪風』、ピアズ・アンソニイ『ルーグナ城の秘密』、アイザック・アシモフ『ファウンデーションの彼方へ』。

 『幻詩狩り』は翌年の日本SF大賞を受賞した。1985年に文庫化されて以来復刊はされていない。


幻詩狩り 川又千秋 中央公論社 伊藤典夫
戦闘妖精・雪風 神林長平 早川書房 岡本俊弥
ルーグナ城の秘密(魔法の国ザンス3) ピアズ・アンソニイ 早川書房 大野万紀
ファウンデーションの彼方へ(銀河帝国興亡史4) アイザック・アシモフ 早川書房 伊藤昭
19世紀フランス幻想短編集 川口顕弘編 国書刊行会 野村芳夫
超人戦争 戸井十月 角川書店 野村芳夫
コピー人間の復讐 加納一朗 朝日ソノラマ 安田均
魔獣学園 清水義範 朝日ソノラマ 伊藤昭
獣の数字 ロバート・A・ハインライン 早川書房 大野万紀
始まりの場所 アーシュラ・K・ル・グィン 早川書房 伊藤昭
タイム・トラベラー 石山透 大和書房 岡本俊弥
ドルセイへの道 ゴードン・R・ディクスン 東京創元社 安田均
宇宙人紛失事件 森下一仁 徳間書店 野村芳夫
ラヴクラフト全集3 H・P・ラヴクラフト 東京創元社 安田均
ペルセウス座進攻 セルゲイ・スニェーゴフ 東京創元社 鏡明
ソングマスター オースン・スコット・カード 早川書房 岡本俊弥

 

 


 この号は筒井康隆特集。短編書き下ろし、座談会、評論(巽孝之)等。


 56号収録のレビューは1984年2月29日(2月分は1冊)から4月30日までの17冊。

 今月の注目作は4作、大原まり子『銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ 』、フランク・ハーバート『砂漠の神皇帝』、パトリシア・ライトスン『氷の覇者』、チャールズ・シェフィールド『プロテウスの啓示』。


銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ 大原まり子 早川書房 大野万紀
砂漠の神皇帝(デューン4) フランク・ハーバート 早川書房 岡本俊弥
氷の覇者(ウィラン・サーガ1) パトリシア・ライトソン 早川書房 伊藤典夫
プロテウスの啓示 チャールズ・シェフィールド 早川書房 野村芳夫
凄ノ王伝説4、5 永井豪+永井泰宇 角川書店 鏡明
真ク・リトル・リトル神話大系10 那智史朗編 国書刊行会 鏡明
黄金の首環(エクザイル・サーガ2) ジュリアン・メイ 早川書房 伊藤典夫
異郷の扉 草川隆 朝日ソノラマ 伊藤昭
エイリアン黙示録(トレジャー・ハンター3) 菊池秀行 朝日ソノラマ 伊藤昭
ヴォネガット大いに語る カート・ヴォネガット サンリオ 伊藤昭
黒い炎の戦士3 白石一郎 徳間書店 岡本俊弥
忠誠の誓い ラリイ・ニーヴン&ジェリー・パーネル 早川書房 野村芳夫
パラレルワールド大脱走 若桜木虔 集英社 安田均
ねらわれたマイコン学園 北園哲也 秋元文庫 岡本俊弥
地球の子ら 石原藤夫 徳間書店 鏡明
魔術師の帝国 レイモンド・E・フィースト 早川書房 大野万紀
キャメロット最後の守護者 ロジャー・ゼラズニイ 早川書房 岡本俊弥


 


 この号は神林長平特集。中篇掲載、インタビュー、作家論(森下一仁)など。

 57号収録のレビューは1984年4月25日から5月15日(1冊のみ3月)までの17冊。

 今月の注目作は4作、筒井康隆『虚航船団』、アーサー・C・クラーク『2010年宇宙の旅』、カート・ヴォネガット『チャンピオンたちの朝食』、エイヴラム・ディヴィッドスン『10月3日の目撃者』。

 ディヴィドッスンは『どんがらがん』を20年先取りした紹介だったが、本書自体はさほど評価されずに終わった。

 


虚航船団 筒井康隆 新潮社 安田均
2010年宇宙の旅 アーサー・C・クラーク 早川書房 鏡明
チャンピオンたちの朝食 カート・ヴォネガット・ジュニア 早川書房 鏡明
10月3日の目撃者 エイグラム・ディヴィドスン 朝日ソノラマ 伊藤典夫
現代イタリア幻想短編集 イタロ・カルヴィーノ他 国書刊行会 大野万紀
テルジーの冒険 ジェイムズ・シュミッツ 青心社 野村芳夫
銀河英雄伝説V 田中芳樹 徳間書店 伊藤昭
最期から二番目の真実 フィリップ・K・ディック サンリオ 安田均
科学INSF ピーター・ニコルス編 東京書籍 岡本俊弥
人生ゲーム D・G・コンプトン サンリオ 鏡明
最後の子供たち グードルン・バウゼヴァング 小学館 岡本俊弥
闇の太守 山田正紀 講談社 野村芳夫
空白の失楽園(空白シリーズ6) 荒巻義雄 祥伝社 岡本俊弥
風たちて“D”(吸血鬼ハンター2) 菊地秀行 朝日ソノラマ 伊藤典夫
吾が魂のイロニー カート・ヴォネガット・ジュニアの研究読本 橋本治他 北宗社 大野万紀
孔雀の街 眉村卓 集英社 大野万紀
ゲルニカ1984年 栗本薫 早川書房 野村芳夫


 


 この号は田中芳樹特集。銀河英雄伝説の中篇、座談会など。

 58号収録のレビューは1984年5月10日から6月30日までの17冊。

 今月の注目作は4作、 山田正紀『夢と闇の果て』、クルト・ブラント&K・H・シェール『アンドロメダへの道』(ペリー・ローダン100巻目)、スタニスワフ・レム『泰平ヨンの未来学会議』。

 ちなみに、2006年現在ペリー・ローダンは300巻を超えている。

 


夢と闇の果て 山田正紀 集英社 大野万紀
アンドロメダへの道(宇宙英雄ローダン100) クルト・ブラント&K・H・シェール 早川書房 鏡明
泰平ヨンの未来会議 スタニスワフ・レム 集英社 野村芳夫
サンドキングス J・R・R・マーチン 早川書房 伊藤昭
霊界からの闖入者(かいけつ親子ドン1) 小山高男 朝日ソノラマ 岡本俊弥
モンスター伝説 ロバート・ブロック他 朝日ソノラマ 野村芳夫
機械仕掛けの神 リチャード・マシスン他 朝日ソノラマ 安田均
世界Aの報告書 ブライアン・W・オールディス サンリオ 安田均
帰らざる宇宙の詩 荒巻義雄 徳間書店 安田均
神獣聖戦T 山田正紀 徳間書店 大野万紀
ディヴィッド王の宇宙船 ジェリイ・パーネル 早川書房 岡本俊弥
花狩人 野阿梓 早川書房 伊藤昭
雄馬と剣(コルム6) マイクル・ムアコック 早川書房 鏡明
オーロラの消えぬ間に 光瀬龍 早川書房 鏡明
サイボーグ逆亡命作戦(サイボーグ1) 若桜木虔 秋元文庫 野村芳夫
蒼き大地の伝説 田中光二 集英社 伊藤昭
SFマガジン・セレクション1983 早川書房編集部 早川書房 岡本俊弥


 


 この号は川又千秋特集。亜人戦士PARTIII開始、対談(甲斐よしひろ)、評論等。また大場惑(宇宙塵)「コンタクト・ゲーム」が掲載されている。

 59号収録のレビューは1984年5月31日から8月7日までの19冊。

 今月の注目作は、ロバート・A・ハインライン『フライデイ』である。また、この月から担当者に福本直美が加わった。

 


フライデイ ロバート・A・ハインライン 早川書房 岡本俊弥
水の誘い(ウィラン・サーガ2) パトリシア・ライトソン 早川書房 伊藤典夫
殺人協奏曲 J=R・サラゴサ 新潮社 伊藤昭
紀・魍魎伝説1 谷恒生 角川書店 鏡明
宇宙皇子1 藤川桂介 角川書店 伊藤昭
風の勇士(ウィラン・サーガ3) パトリシア・ライトソン 早川書房 伊藤典夫
宇宙の操り人形 P・K・ディック 朝日ソノラマ 鏡明
妖神グルメ 菊池秀行 朝日ソノラマ 野村芳夫
火星の秘薬 チェルノコフ他 ナウカ 安田均
ショートショートの広場6 星新一編 講談社 大野万紀
城塞 ザ・キープ F・ポール・ウィルソン 角川書店 安田均
一世紀より長い一日 チンギス・アイトマートフ 講談社 野村芳夫
アッシュと母なる惑星(アッシュ3) 田中光二 講談社 大野万紀
月は死を招く(未来探偵2) マイク・マックウェイ 東京創元社 大野万紀
魔獣狩り 暗黒編(サイコダイバー2) 夢枕獏 祥伝社 岡本俊弥
聖槍の呪い 志茂田景樹 祥伝社 野村芳夫
夕映えの戦士(黄昏の戦士1) エリック・ヴァン・ラストベーダー 早川書房 鏡明
不可思議アイランド 山田正紀 光風社出版 福本直美
風吹く夜はラグタイム(スターゲイザー1) 大和真也 シャピオ 福本直美


 


 この号は梶尾真治特集。中篇掲載、作家論、インタビューなど。

 

 60号収録のレビューは、5月の1冊と、1984年7月13日から8月31日までの計20冊。

 今月の注目作は3作、川又千秋『時間帝国』、田中光二『天界航路』、日本SF年鑑編集委員会『日本SF年鑑84』である。

 


時間帝国 川又千秋 角川書店 福本直美
天界航路(ハーマゲドンの嵐3) 田中光二 徳間書店 伊藤昭
日本SF年鑑’84 日本SF年鑑編集委員会 新時代社 安田均
終わりに見た街 山田太一 中央公論社 伊藤昭
惑星Oの冒険 モーリス・ジー 岩波書店 伊藤昭
あなたにここにいて欲しい 新井素子 文化出版局 福本直美
ソウルイーターを追え マイク・レズニック 新潮社 野村芳夫
迷宮のアンドローラ 長岡秀星 集英社 鏡明
生存者の回想 ドリス・レッシング サンリオ 岡本俊弥
惑星スパルタふたたび(銀河辺境14) A・バートラム・チャンドラー 早川書房 安田均
日曜日のは宇宙人とお茶を 火浦功 早川書房 大野万紀
地球への侵入者 グルフ・コンクリン編 朝日ソノラマ 岡本俊弥
闇狩り師 ミスター仙人・九十九乱蔵1 夢枕獏 徳間書店 福本直美
裏切りのゲリラ星域 在沢伸 朝日ソノラマ 野村芳夫
綺型虚空館 梶尾真治 早川書房 岡本俊弥
ウィアードテイルズT 那智史朗+宮壁定雄編 国書刊行会 鏡明
もう一つの世界 豊田有恒 角川書店 鏡明
学園ポップス伝説 草川隆 秋元文庫 大野万紀
ホラー&ファンタシイ傑作選1 大瀧啓裕編 青心社 大野万紀
聖堂都市サーク テリー・カー 早川書房 野村芳夫


 


 この号は都築道夫特集。3短編書き下ろし、対談など。

 61号収録のレビューは1984年7月から9月30日までの19冊。

 今月の注目作は2作、 鏡明『不確定世界の探偵物語』、アメリカSF作家協会『SFの書き方』。


不確定世界の探偵物語 鏡明 徳間書店 大野万紀
SFの書き方 アメリカSF作家協会 講談社 鏡明
なぞの宇宙基地(宇宙戦士キール・ランダー1) ダグラス・ヒル ポプラ社 野村芳夫
カナンの試練(トワイライト・サーガ2) 栗本薫 光風社出版 福本直美
ビーストチャイルド ディーン・R・クーンツ 東京創元社 岡本俊弥
魔境遊撃隊(第1部) 栗本薫 角川書店 岡本俊弥
魔海戦記 田中文雄 角川書店 岡本俊弥
ステンレス・スチール・ラット大統領に! ハリイ・ハリスン サンリオ 安田均
ザ・ベスト・フロム・オービット(上) デーモン・ナイト編 NW-SF社 伊藤昭
真夜中の戦士(黄昏の戦士2) エリック・ヴァン・ラストベーダー 早川書房 伊藤昭
199X年日本寒冷地獄 生田直親 徳間書店 伊藤昭
不老不死の世界(リチャード・ブレイド10) ジェフリー・ロード 東京創元社 鏡明
デッドアイ・ディック カート・ヴォネガット 早川書房 野村芳夫
影よ、影よ、影の国 シオドア・スタージョン 朝日ソノラマ 安田均
妖精作戦 笹本祐一 朝日ソノラマ 福本直美
エイリアン怪描伝 菊池秀行 朝日ソノラマ 安田均
時の輪舞 宮原京子 あらき書店 福本直美
白蓮都市ネフェルタ(大魔界4) 田中文雄 早川書房 大野万紀
地獄への門 ポール・プロイス 早川書房 野村芳夫

 1984年全般については、1985年の4月号 に総括記事が書かれている。執筆者は、国内が伊藤昭、翻訳が岡本俊弥で、評者全員の推薦作から下記作品が選ばれている (アドベンチャーのベストは発行年月日1月〜12月で区分けを行うため、概ねその年の2月に出る4月号から翌年1月に出る3月号までが選考範囲となる)。

 同号掲載の評者による総括は下記の通り。

  翻訳にも流行がある。けれど、創作とペースが異なり、過去何年かの作品が一度に出版されることもある。例えば、ディック(1982年)、ホーガン(1983年)などである。昨年も、それに近い動きはあったが、目立つものは少なく、ベストには、余り反映されていない。ベストに占める海外作品は、昨年の11編から比べると、約半分に減ってしまった。とはいえ、一くくりにできない、多彩さが出たラインアップではある。

 ここからは、ある意味での、七〇年代と、八〇年代との対比が可能だ。 『チャンピオンたちの朝食』(1973)、『樹海伝説』(1979、原型は73年) は、未完成さと重さに象徴される、七〇年代の作品。一方、八〇年代側は、人気の高まってきたベイリー『禅銃』(1983)、初紹介のイギリス作家コンプトン 『人生ゲーム』(1980)、タイ人スチャリトクルの『スターシップと俳句』(1981)、マーチン『サンドキングス』(1981)など、多様さと軽さを併せ持ち、十年前の作品とは、対称的な位置関係にある。

 ウォネガットの年だった――本当なら、そう言ってもおかしくないはずなのである。並み居る大家とともに来日し、翻訳も『ウォネガット、大いに語る』、『パームサンデー』、『デッドアイ・デイック』等、大量に紹介されている。しかし、日本での講演は、それほどの感慨も呼ばず、近作も過去の出世作から遥かに遠い・・印象が希薄化している。ようやく紹介された 『チャンピオンたちの朝食』 は、そんな“現在”のウォネガットとは、異質な肌合いを持つ作品だ。七〇年代前半 『スローターハウス5』 の次に書かれた、妙にどろどろとした長編である。本書が、ウォネガットの評価を決定付けた。今読んでも (たとえ同時代性は薄れても)、 言葉の切れ味は衰えていない。現在の作品の、単純で短い言葉は、この“過去”とそう変わらない。違いは、込められた感性の重みだろうか。直後に、『スラップスティック 』が続くけれど、もうそこに至ると、本書の味は消え失せている。

 もうひとつの“伝説”『樹海伝説』は、73年に原型となる中編が書かれ、79年に長編化されている。異星のヒューマノイドの「死と選定の儀式」と、観察する一人の学者――何が、異星人を駆り立てるのか、森林の奥に潜むパゴダには、何が隠されているのか。重なり合う謎は、最初の中編では、一つも解決されていない。小説ではなく、人類学だという評価も産んだ。それがなぜか、長編で総て説き明かされてしまう。緊張感をはらむ中編は、ニューウェーヴの影響を受けていると見えるだろうし、解決編は、SFへのこだわりだとも思える。執拗な謎へののめり込み、一転して解決への拘泥――その点で、七〇年代の影を強く遺した作品である。 (同様のテーマで書かれた『焔の眼』(1980)が、過去に翻訳されている。同一作家同一テーマでも、これだけ雰囲気が異なる。読んでいただければ、明らかだろう)。

 余談になるが、同時代で、NWを通過してきた作品を見るなら、短編集 『ザ・ベスト・フロム・オービット』 (上)が、最適である。六〇年代後半の、アメリカンNW (と、単純に分類したら、やや語弊があるか) の成果が集められている。
 ポストNWの代表格、マーチンは、以前に『翼人の掟』(リサ・タトルとの合作)が紹介されているけれど、短編集である本書 『サンドキングズ』 のほうが、完成度は高く、緻密にして描写力に優れる。中短編における旨さでは、ビショップと直接比較できそうなのだが、しかし、重々しさはない。テーマの重さ、文体の重厚さ――もちろん、どこと一概に言い切れはしない。ただ、マーチンには、垢抜けた軽快さがあって、その差は、はっきり出ている。少なくとも、テーマに対する、あの確執はない。

 確執はなくても、ガジェットの豊富さは、むしろ現代である。ワイド・スクリーン・バロック(WSB)という用語が、一時流行った。これは、スケールの大きさと、アイデアの多様さを象徴するタームなのだが (提唱者である、オールディス自身の言葉を借りるなら、「絢爛華麗な風景と、劇的場面と、可能性からの飛躍に満ちた、自由奔放な宇宙冒険物」) 両者を満たす作品は少なく、まして作家となると、なお少数になる。翻訳が出るたびに、この形容がなされるベイリーは、特異な例に入るのだろう。『禅(ゼン・ガン)銃』は、定義の上から、十分WSBに相当する。もっとも、小説として見た場合、必ずしもベストと言いがたいのが難点だ。WSBは『虎よ、虎よ!』の形容に用いられた事でも分かるように、物語面での不完全さを、“奔放さ”で補うものである。不満を残したのは、その面での力不足とも考えられる。しかし、SF最大の武器 (八方破れのアイデアの洪水) を、作風として保ち続ける姿勢は評価できる。

 別の意味で、現代SF傾向を強めたのが『スターシップと俳句』だ。“日本”は、これまでも(SFに限らず)、誤解の上に成り立つ、エキゾチズムの典型とされてきた。( 筒井康隆「色眼鏡のラプソディ」 参照)。それは、日本人にとって、大半が何の意味もなさないものだった。しかし、本書では、異次元の日本が、一つのSF的ガジェットにまで高められている。ほんの少し視点を変えるだけで、現実にあるものが虚構と化す面白さは、小説的技法が成熟した現代のほうが、かえって増しているのかもしれない 。 スチャリトクル(アメリカに住む、王家の血を引くタイ人で、日本に詳しく、英語で小説を書く)という、ユニークな作家の個性が光っている。
 ジャパネスク趣味の作品では、他にラストベーダーの<黄昏の戦士>(三部作)などが、翻訳された。

 イギリス作家コンプトンは、以上の作家達とは、やや傾向が違うかも知れない。淡々とした文体、活劇はなく、静かに物語は展開していく。この作風は、六〇年代のデビュー当初から、ほとんど変わっていない。イギリスには、オールドウェーヴもニューウェーヴもなく、あるのは作家の個性だけ、とはイギリス人の自己評価だが、あながち外れてはいないだろう。(ベイリーもイギリス人だ)。本書の中では、主人公と未亡人との葛藤が、全編にわたって続く。それだけで、現実には何も起こらない。<月塵>、<消滅>などのタームは、背景としてのみ、意味を持つ。極めてストイックな心理描写が、ハーレクィン=シルエット風メロドラマに混入され、それがまた異質さ(非現実さ)を盛り上げている。こんな作品は、意外に受けるようになるかも知れない。

 七〇年代対八〇年代という言い方をしてきたが、実際問題、八〇年代作品に明白な傾向がないのが、むしろ特徴になっている。現象としてのSFでは、例えばファンタジーものの大量出版など、風潮がないわけではない。後でも触れるように、一般ベストセラーにSFが何編も顔を覗かせていたりする。そのことの是非はともかく、方向性の均質さを失った模索状態が、昨年のベストに選ばれた、八〇年代初期作から窺える。確かに作家個人は、そういう流れとは無関係に創作を続けている。しかし、受け入れられる作品の内容が多様化し、方向性を持たないのは、現代の要請だろう。これは、翻訳を企画する、我国の出版側にも言えることである。

 最後に、ベスト外の動きを簡単に追ってみよう。まず、ソノラマ海外SFシリーズが、意外性のある作品を中に含みながら、スタートしている。『宇宙の操り人形』(ディック)、『アメリカ鉄仮面』 (バドリスの初期代表作。しかし、この題名、なんとかして) などは、収穫に上げてもいい。コンクリンのアンソロジーを始めとして、スタージョン、カットナー、ヘンダーソン、ディウィドスンと、短編集も豊富だった。基本的に(いわゆる)五〇年代を指向しており、過去の作品の持つ良さを、若い読者に再発見してもらおう、という趣旨である。ただ、これらは、もともとのベスト・オブ・XXから、更に何編かを選ぶ過程を経たもので、オリジナルの持つ雰囲気を、必ずしも伝えていないものがある。

 昨年は、巨匠復活の年でもある。たとえば、『フライデイ』、『獣の数字』のハインライン、『ファウンデーションの彼方へ』のアシモフ、『2010年宇宙の旅』のクラークなど。その上、『砂漠の神皇帝』のハーバートまであるという豪華さ。アメリカでは、総てベストセラーのリストに入っている。ただし、これらの作品の大半は、題名や作者名(あるいは、映画化) が、中身より大書きされる内容だった。残念ながら、それだけ新味に乏しく、ベストの中には一編も選ばれなかった。
 

1982-86年のSFアドベンチャー収録書評リスト(Excel版)