【国内篇】(順不同)
 

装画:吾妻ひでお,装幀:新潮社装幀室 森青花『BH85』(新潮社)
 第11回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。養毛剤が突然変異ををおこして、人や生き物を飲み尽くし、ついには…、というお話。
 本書は「ファンタジー大賞」というカテゴリから出てはいるが、内容は完全なSFである…
装幀:鈴木成一デザイン室,装画:藤田新策 恩田陸『月の裏側』(幻冬舎)
 売れ行きも好調なホラーの話題作。フィニイの古典SF『盗まれた街』(ボディ・スナッチャー)との暗合が、本書の文中で言及されている。
 街の1割が濠で占められる九州の箭納倉(やなくら)に、主人公の音楽プロデューサーが訪ねてくる…
装丁:増田寛,(C)AURA/STScl/NASA 池上永一『レキオス』(文藝春秋)
 基地の島沖縄、ここには巨大な米軍基地があり、島の暮らしも基地の存在を抜きに語れない。そんな町で生まれた混血の少女デニスには、太古から続く巫女の血が流れていた。沖縄は極東の要にあり、呪術的なエネルギーの焦点でもある…
装画:菊池健,装幀:ハヤカワ・デザイン 菅浩江『永遠の森 博物館惑星』(早川書房)
 本書で描かれるのは、実は展示品の奇妙さにあるのではない。主人公らは、展示や調査などさまざまな問題の中に、傷ついた人の心そのものを見つけ出そうとするのである。精神に病を負った人にしか聞こえない調べ、正体不明の人形に込められた思い…
表紙イラスト:とり・みき、装幀:廣田清子 巽孝之編『日本SF論争史』(勁草書房)
 これまで日本のSFを論じる中で、何度も言及されながら、実物を読む機会が得られなかった著作、すなわち概要はあっても、内容がなかった評論が本書でまとめて読める。評者にしても、現物を読むことなどめったにないし、単行本も含めて入手困難なものがほとんどである…

【コメント】
 国内の作品には多数の収穫があり、ここに挙げた以外でも牧野修『病の世紀』や各種新人賞作品など注目に値する著作が多かった。今回は、新人賞の中では純粋にSFといえる『BH85』を、人気の高まる恩田陸から、フィニイへのオマージュといえる『月の裏側』を、本年最大のパワーを感じさせるという意味で『レキオス』を、SFの良心『永遠の森』をそれぞれ選択した。『日本SF論争史』は、それらとは別に、20世紀後半(というか事実上の現代日本SF史)を象徴する記念碑として選んでいる。


【海外篇】(順不同)

カバーイラスト:往頼範義,カバーデザイン:ハヤカワデザイン ダン・シモンズ『エンディミオンの覚醒』(早川書房)
 カトリック教会パクスの支配下にある人々に、“教え”を与える少女アイネイアーと主人公は、5年にも及ぶ別離を経て、ダライ・ラマの惑星「天山」で再会する。迫りくるコアの執拗な殺し屋たち、そして、十字軍による仲間の虐殺。しかし、困難を乗り越え、彼女の選択した手段とは…
ブックデザイン:鈴木成一デザイン室 グレッグ・ベア『ダーウィンの使者』(ソニー・マガジンズ)
 アルプスの氷河で発見された、ネアンデルタール人の男女と胎児。しかし、その胎児は現生人類と思われた…。同じ頃、人の遺伝子に潜むレトロ・ウィルスが活性化し、妊娠中の胎児を変貌させる病が顕在化する。これは人類を滅亡させる疾病なのか、それとも新たな進化を導く神の手なのか…
書影なし

キース・ロバーツ『パヴァーヌ』(扶桑社)
 …サンリオから、キース・ロバーツの傑作『パヴァーヌ』が出た。オルタネート・ユニバーステーマが語られるとき、必ず言及される作品である。淡々と描かれるもうひとつの世界は、イギリスSFの風格を感じさせるものだ…(1987年サンリオ版: 当時の評者ベスト解説より)

アートディレクション:吉永和哉,造形:松野光洋,撮影合成&デザイン:岩郷重力+WONDER WORKZ 中村融編『影が行く ホラーSF傑作選』(東京創元社)
 個人短編集などには、わが国独自のものも少なくない。欧米ではマイナーだが、日本に熱狂的なファンがいる、といった場合である。本書はちょっと違って、編者が独自テーマに沿って、作品選択した点に特徴がある。その昔新潮社が出したオリジナル翻訳アンソロジー に近い…
カバーイラスト:加藤直之,カバーデザイン:ハヤカワ・デザイン シルヴァーバーグ編『SFの殿堂 遥かなる地平』(早川書房)
 名作シリーズのエピソードばかりを集めた書き下ろしアンソロジイというと、どこかキワモノめいて聞こえる。(中略)日本でも、ファンタジィやミステリ分野で編まれたことがある。しかし、編者シルヴァーバーグは、「シリーズ」にいくつかの制限をつけて、中身の意義を高めようとする…

【コメント】
 国内に対比して、2000年の翻訳は収穫が少ない。ファンタジイを含めないとすると、あまり選択の余地がない。『エンディミオンの覚醒』はこれだけ単独で読むものではない。完結篇として含めた。ベアの新境地『ダーウィンの使者』は、SFよりもハイテク・サスペンスに近い。幻の名作『パヴァーヌ』は、増補改訂版のため入れたが、もともとサンリオから出たものとほぼ同じ内容だ。『影が行く』は久々のオリジナル短編集で、その意欲を買って選択。『SFの殿堂』は企画意図がストレートすぎて気恥ずかしい。内容的には問題ないレベルだろう。

 

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