【国内篇】(順不同)
平谷美樹『エリ・エリ』(角川春樹事務所) 第1回小松左京賞受賞作。新人賞では、第1回SF新人賞 もあったが、今年は小松左京賞の勝ち。SFマガジン2000年ベストのレンジ(10月末刊行分まで)から外れているものの、本来ならば、本書がSF界最大の話題作といっていいだろう… |
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田中啓文『銀河帝国の弘法も筆の誤り』(早川書房) “駄洒落作家”では、横田順彌が先輩にいるので、前例がないわけではない。当時は、作家個人の一人芸といった雰囲気で、必ずしも支持者は多くなかった。今回は、出版社(SF界?)をあげて支援を行っている点が異なるようだ… |
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小林泰三『ΑΩ』(角川書店) 小林泰三の書き下ろし長編。“超・ハード・SF・ホラー”と銘打たれている。もともと短編を主体とした活動をしてきた作家だけに、初のSF長編には注目が集まることだろう。 諸星隼人は、飛行機事故をきっかけに、プラズマ状の異星人「ガ」と体を共有し超人に変身… |
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野尻抱介『ふわふわの泉』(エンターブレイン) 冒頭、“ふわふわ”こと立方晶窒化炭素が、高校の理科の実験室(!)で偶然合成される。空気よりも軽く、ダイヤモンドより硬い素材だ。発見者の女子高生は製造会社社長に就任、またたくまに世界の様相を変貌させていく。そしてついに衛星軌道まで届く“橋”の建造に乗り出すが… |
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牧野修『呪禁官』(祥伝社) 魔法と科学の役割が入れ替わった、と聞いてフリッツ・ライバー『闇よ、つどえ』を思い出すようでは、古生代の遺物かも。 (中略)最近では、古橋秀之のブラックロッド3部作などで、魔法の日常化が『大魔王作戦』風に書かれています… |
【コメント】
ベストはすべて新進作家で占められた。何れも従来のSFに、著者独自の拡張を加えており、新鮮さを買える。他でも、奥泉光の『鳥類学者のファンタジア』は、ファンタジイとはいえ(一般読者ではなく)SFファンに対してのみ有効な物語が含まれており、ベストに含めるべきかどうか迷うところだ。佐藤哲也の短編集『ぬかるんでから』も同様。この2作は、レンジ外ながらベストと同水準の秀作である。
【海外篇】(順不同)
グレッグ・イーガン/山岸真編『祈りの海』(早川書房) イーガンの中短編を集めたオリジナル・コレクション。長編を読んだ印象だけでは窺い知れない、著者の感性を知ることができる。(中略)イーガンの既訳長編は、アイデアが羅列的に置かれたバランスの悪いものだった。そのため、主張がストレートに伝わりにくかったのである… |
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ブルース・スターリング『タクラマカン』(早川書房) スターリングの新作短編集(99年刊)。短編集という意味では『グローバルヘッド』(1992年刊)が97年に翻訳されているので、4年ぶりになる。とはいえ、スターリングは、極めてポストモダンな(“今”を書く)作家であるが故に、時代とともにリアルタイムに読むことがまず肝要である… |
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マイケル・マーシャル・スミス『オンリー・フォワード』(ソニー・マガジンズ) |
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中村融・山岸真篇『20世紀SF(全6巻)』(河出書房新社) 叢書全体としてみた場合、まず翻訳を「現在の視点」に統一した点を評価したい。日本で1950年代前後の海外SFといえば、60年(SFマガジン創刊)以降に集中的に紹介されたものが多く、(中略)翻訳を新しくすることには、訳文の精度向上以外に、抵抗なく読めるようにするという意味がある… |
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イアン・M・バンクス『ゲーム・プレイヤー』(角川書店) バンクスのSFは妥協がない書き方をするため、日常から非日常といった導入部などは設けない。冒頭100ページぐらいまで、本書の舞台である未来の異世界<カルチャー>が描かれる。結構読むのに苦しい。しかし、ゲームが世界自身でもある<帝国>に舞台を移して以降は、俄然面白くなる… |
【コメント】
海外については今年は選ぶ余地があまりない。ほとんどの人も同様ではないだろうか。長大なアンソロジイ『20世紀SF』は、英米SFに対する我々(日本読者)の意見表明とも読めてたいへん面白い。ただし、凝集度が高すぎて一般読者向けには難しすぎるかもしれない。イーガン、スターリングについてはこれまでで最良に近い作品集。スミスも処女作ながらベストと思われる。次点には、ワトスンの『オルガスマシン』が挙げられる。