テーマを設けない全作描き下ろしSFアンソロジイとしては日本唯一の《NOVA》シリーズ、2009年の12月に『NOVA1』、2010年7月に『NOVA2』が出て、同年12月に出たのが本書である。
とりみき(1958)「万物理論」:SFの定義がついに明らかに!熱狂に湧く島に赴く主人公を待っていたのは
小川一水(1975)「ろーどそうるず」:バイクとメンテナンス、人工知能同士の友情に似た交流の記録
森岡浩之(1962)「想い出の家」:思い出をVRで創造するサービス会社が受けた奇妙な依頼
長谷敏司(1974)「東山屋敷の人々」:不老処理を受けた当主と親類一同に蔓延する不協和音
円城塔(1972)「犀が通る」:仕事場として使う喫茶店で広がる、とめどない連想の作り出す世界
浅暮三文(1959)「ギリシア小文字の誕生」:ギリシャの小文字が生まれた過程に纏わる艶笑神話
東浩紀(1971)「火星のプリンセス」:「クリュセの魚」から15年後、主人公と娘に課せられた過酷な運命
谷甲州(1951)「メデューサ複合体」:木星の軌道に浮かぶ自動工場で起こった不具合の真相
瀬名秀明(1968)「希望」:天才物理学者の母親と、実験用ダミー人形の権威である父親に翻弄される娘
今回も著者の年代が分かりやすいように、生年を入れてみた。前巻が60年代生まれ中心だったのに対して、70年代寄りになっている。30歳代の作家が増え、より「現在」に近づいたということだろう。このうち、東浩紀のみ長編の一部(連載第2回)、とりみきは『SF本の雑誌』掲載作に結末を追加したものである。「ろーどそうるず」の主人公はバイク。バイクは国内の生産数量がピークの4分の1に減るなど、もはや斜陽産業なのである。未来はますますそうだろう。そういう事実と重ね合わせて読むと、印象も少し変わってくる。「希望」は現代のさまざまな問題意識を凝集させた、非常に中身の濃い作品。著者はこういった課題を易しく書いてはくれないので、じっくり読むことをお勧めする。時事ネタとまでは言わないが、本書は全般的に「今」を感じさせる内容だ。
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