八潮久道『生命活動として極めて正常』KADOKAWA

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 著者は1985年生まれ。本書はカクヨムなどに発表した作品5編(はてなダイアリー、ブログに書かれた10年前の作品も含む)に、書下ろし2編を加えた初の作品集である。ある日KADOKAWAの編集者から打診があり…という詳細な出版経緯はこちらに書かれている。インフルエンサーでも有名人でもないと謙遜するが、ブログ記事(やしお名義)が年間総合はてなブログランキングの1位になるなど、注目を集める書き手であったことは間違いないだろう。

 バズーカ・セルミラ・ジャクショ(2016)バズーカのレーティングが突然ゼロになり、電子決済も使えない。主人公はセルミラを勧められ、ジャクショの存在を知るが。
 生命活動として極めて正常(2014)生産管理部の課長が課員を拳銃で撃ち抜く。その後、各部署に電話をかけ申請書を準備し、プロトコルに従って事務処理を進めていく。
 踊れシンデレラ(2016)継母の体育会系体罰や、義姉たちの理不尽な後輩虐めに、体育会的に応じる筋肉派シンデレラの物語。
 老ホの姫(2023)ほぼ男ばかりでロボット介護の老人ホームに新人が入居する。そこでは独特のルールがあり、中でもアイドルめいた「姫」の存在が特異だった。
 手のかかるロボほど可愛い(2021)リゾートにある戦争博物館に一人の老人が訪れる。案内係は古いAIロボットだったが、だんだんと調子がおかしくなる。
 追放されるつもりでパーティに入ったのに班長が全然追放してくれない(書下し)魔物を班(パーティ)単位の部隊が討伐、だが無能な班員を辞めさせるのは難しい。
 命はダイヤより重い(書下し)人身事故が起こっても列車を止めることは許されない。そういう鉄道会社のルールに従う主人公は、奇妙な現象に気がつく。

 少し不思議系なのかと思うと、かなり意外な方向に動く。『バズーカ・セルミラ・ジャンクショ』は、近未来ディストピアが後半「ツリー!」とかのピッピ語により、不条理な雰囲気を増幅していく。表題作は、会社にありがちな官僚的な社内規則に一点の「異常」を付け加える。『踊れシンデレラ』は、文字通りのデフォルメされた体育会系シンデレラ。「老ホの姫」は、老人ホームの老爺アイドルを巡る力関係をパワーゲーム風に描く。「手のかかるロボほど可愛い」は、戦場での老人の過去が明らかになっていく。書下ろしとなる「追放されるつもりでパーティに入ったのに班長が全然追放してくれない」は状況の説明を最小限にして、主人公の利己的なふるまいと状況に流されてしまう気弱さが描かれる。「命はダイヤより重い」は、これも一点異常ものなのだが、他の作品より社内の人間模様に焦点を当てたところが印象的だ。

 近作になるほど登場人物の行動に重点が移る。視点の混乱とか、切り詰め過ぎ/あるいは引っ張りすぎと思われる作品はあるものの、表題作に代表される異常さをシームレスに挟み込むセンス(きわめて非現実的なのにリアルさがある)は優れていて面白い。