KADOKAWA電撃文庫と小学館ガガガ文庫から、最近話題になった2作品を取り上げた。前者は異色のゾンビ年代記、後者はロングセラーSFをキーワードとした学園ものである。
『はじめてのゾンビ生活』は、電撃ノベコミ+に掲載されたのち単行本となった不破有紀のデビュー長編だ。
26世紀、女子高生がゾンビ検査で陽性となるところから物語は始まる。この時代ではゾンビ化が人類の4割まで進んでいるものの、親子間でも差別意識がまだ消えていない。月や火星の開発には、過酷な環境に耐えるゾンビが欠かせなかった。やがて、ゾンビたちは新人類と呼ばれるようになる。
2151年から(3068年の人類滅亡を経て)3149年まで、千年を超える間のさまざまなエピソードが、地球、月、火星、新世界と地域ごとにシャッフルされて並ぶ。全編が50余の短い章に分かれ、関連のある物語もばらばらになっている(単独の章もある)。例えば、2519年の次が3068年、2315年、2445年と目まぐるしく入れ替わる。ただ、数百年~千年もの未来なのに社会やテクノロジー、人間(ゾンビ)関係に至るまで21世紀とあまり変わりがない。なので、読み手の混乱は最小限に抑えられる。
腐ったものを好み、鉱物まで平気で食らうゾンビの生態は、一般の生物と相容れないと思えるが、本書の中では人種や民族、性差という今日的な差異と同等に表現されている。実際、そういう趣旨の啓蒙パンフレットが本書の巻頭に置かれている。ここだけならコメディに見える。後に行くほど、ゾンビ=新人類は、紅い目をしたふつうの人間と変わらなくなっていく。とはいえ、一般名詞化した(題材的にありふれた)ゾンビを描き出すためのユニークな切り口には違いないだろう。
『夏を待つぼくらと、宇宙飛行士の白骨死体』は、2024年の第18回小学館ライトノベル大賞《優秀賞》作品である(『星を紡ぐエライザ』を改題)。篠谷巧は、エブリスタの2021年『この文庫がすごい!』大賞を受賞しデビュー、ゲーム翻訳者の経歴があり、本書でも英語慣用句を直訳(青天の霹靂を「青から突然」とか)でしゃべる母親が登場する。
高校生活最後の夏、友人と共に夜の学校に忍び込んだ主人公は、中学生の頃に旧校舎にひそかに貼り付けた呪いのお札の様子を見にいこう誘われる。旧校舎はもう取り壊されるのだ。途中、そのとき仲間だった1人も加わり、離れた場所にある木造旧校舎に向かう。だが、隠し場所にあったのは、お札ではなく宇宙飛行士の白骨死体だった。
宇宙飛行士はチャーリーと名付けられる(引用したレビューは初紹介当時のもの)。はたしてこの人骨は本物なのか、宇宙服は実物なのか、なぜここにあるのか……中学生時代に仲間だったもう1人を加えたチームは謎の解明に奮闘する。その中で、メンバーの個人的な秘密や思いが次第に明らかになる。ホーガンなどのSFネタを程よくちりばめながらも、ファンタジーではなく王道の学園ドラマに着地しているのは良い。