レベッカ・ヤロス『フォース・ウィング 第四騎竜団の戦姫』早川書房

Fourth Wing,2023(原島文世訳)

扉デザイン 名久井直子
Cover art by Bree Archer and Elizabeth Turner Stokes
Stock art by Paratek/Shutterstock; stopkin/Shutterstock; Darkness222/Shutterstock

 ロマンタジー(ロマンス+ファンタジーからなる造語)という、聞いたことがあるようなないような新ジャンルが、昨年から英米を中心に流行っているようだ。筆頭のサラ・J・マース10年ほど前に邦訳があるが、当時は全く注目されなかった)などは3700万部を売ったのだという。本書の著者レベッカ・ヤロスはロマンス小説の書き手(現在も)だったが、今ではマースと並んで注目を集めるベストセラー作家である。本を紹介するBookTokなどSNSで、絶大な人気を博したのが要因とされる。

 高い山脈により東西に分かたれた大陸に、2つの競い合う王国があった。主人公は西の王国にある軍事大学騎手科に入学しようとしている。もともと書記を志望していたのに、軍の要職に就く母の意向には背けなかった。騎手科は竜に乗れるため志望者は多いが、卒業までの生存率が極めて低いことでも知られている。しかも、学内には彼女と敵対する学生が何人もいる。

 まず、上司であり実母でもある司令官との相克がある。次に入学試験(吹きさらしの一本橋を渡りきる)や軍事訓練だけでなく、竜との相性などあらゆる理由で死が正当化される大学生活があり、学友には過去の叛乱に関与した子孫がいて常に監視されている。なんとも殺伐とした雰囲気だ。ただ、そんな敵ばかりと思われた中に、極めて強く惹かれるパートナーが現れる。それは竜との絆とも関係していた。

 本書が本当に新しいのかは、先行作(解説でも指摘がある《パーンの竜騎士》《テメレア戦記》《ハリーポッター》から《ハンガー・ゲーム》まで)との類似点も多く異論が出てきそうだが、ロマンス小説との融合となると確かに新しい。こういうジャンルが苦手なSF作家には、書き難い作品とはいえるだろう(官能ファンタジーを書くアン・ライスなどはいたが)。情交シーンにしても、濃厚であってもハードコアではなく、エロティック・ロマンスなりのレギュレーションに則って書かれていると思われる。

 では、なぜいまロマンタジーが流行るのか。本書はマーチンの《ゲーム・オブ・スローンズ》とも似ている。登場人物が理不尽なほど次々と亡くなるし、強大で不気味な敵まで出てくる。しかし、マーチン特有のあのダークさはない。最近のファンタジーには、居心地の良さやロマンチックさが求められるという(冒頭のリンク記事参照)。フィクションには、現世の不安(=明日どうなるか分からない)を打ち消す光明が求められるからだろう。本書の主人公の運命は、前途多難とはいえ暗さを感じさせないものなのだ。

 シリーズなので続刊あり(原著は2巻目まで既刊、3巻目もラインアップ済み)。