市川春子『宝石の国(全13巻)』講談社

装丁:市川春子

 『宝石の国』は、月刊アフタヌーン誌の2012年12月号から2024年6月号まで、途中休載を挟みながらも12年間108話分連載された長大な作品である(単行本は2013年~24年)。2017年にはアニメ化がされ、本編完結後には第45回日本SF大賞最終候補作に選ばれている。少女戦士ものの学園ファンタジイに見えたお話が、最後には壮大なポストヒューマンSFとなっていく過程は他に類を見ない。硬質で乾いた地上や、曲面を多用する水中、ぬめぬめとした月世界の描写などはバンド・デシネの細密画を連想する。

 何の取り柄もなさそうな主人公フォスフォフィライトは、夜を担当し毒を分泌するシンシャやダイヤモンド属らと交流するが、襲来する「月人(つきじん)」が残した巨大なカタツムリに飲まれて、海中でその生き物の正体知り、海から帰還するも手足を喪う。
【以下はコンデンスされた要約(AIは使っていません)】
 月から次々と分裂する奇妙な生き物が来る。「先生」は何か知っているようだ。他の宝石たちと交わる中でフォスは成長するも、傷つき修復されるたびに人格が混ざり合い性格が変わっていく。「先生」には禁忌があり肝心のことを説明しない。月には内部からせり上がる金属で作られた都市がある。フォスは月人がどういうものかを知り、仲間の再生のために決断を迫られる。しかし、そうするには「先生」を自分に従わせる必要があるのだ。

 「先生」と呼ばれる僧侶姿の金剛と、28人の宝石である「生徒」たちは、草原のただ中にある「学校」に住んでいる。彼らは上半身が少年、下半身が少女の姿をしているが、性別はなく有機生命ですらない。硬度がさまざまな文字通りの無機物=宝石なのだ。硬さの反面砕けやすいが、つなぎ合わせることで元に戻せ、何万年も生きられる。地上には彼らしかいない。かつて人間だったものは、魂(月)と骨(宝石)と肉(海中)に分かれ別々に生きるようになった。しかし、フォスの登場でその関係は不安定になる。

 物語は終盤近くになって凄惨さを増し大きく流転する。(詳細は読んでいただくとして)第12巻では、人類が滅びた後なぜ彼らが分離し、何を目的に生存してきたのか、世界の秘密と始まりが明らかになる。宝石たちの物語はそこで終わっている。2年後に出た最終の13巻は、これまでとは一変する。神と(人形を有しない)無機物たちの黙示録めいた会話(といっても、形而上の難しいものではない)だけで成り立っているからだ。つまり、現世を超越したステープルドン的な神話となって終わる。