マンガ 森泉岳士/原作 スタニスワフ・レム『ソラリス(上下)』早川書房

SOLARIS,1961(森泉岳士 マンガ、スタニスワフ・レム 原作、沼野充義 監修)

扉デザイン:鈴木成一デザイン室

 森泉岳士によってハヤコミに連載され(現在、冒頭の3話までは無料で読める)、ハヤカワコミックスから刊行されたマンが版『ソラリス』である。底本はハヤカワ文庫SFに入っている同題のポーランド語版による。

 惑星ソラリスにある観測ステーションに心理学者のケルヴィンが到着する。しかし、内部は装備が散乱する状態で、先任の科学者たちは姿を見せない。ここでは一体何が起こっているのか。やがて、ケルヴィンの前に一人の女性が現れる。それは19歳で自殺したかつての恋人ハリーだった(この物語の詳細については下記コラムを参照)。

 原著発表から64年、初翻訳(ロシア語からの重訳)が出てから60年を経て、いまだにオールタイムベストの1位に選ばれる傑作である。タルコフスキーによる映像化も有名で(その解釈についてレムは不満だったようだが)これを越えるのは困難と思われてきた。森泉岳士は、ビジュアルを意識しないレムの描写を絵にするには、漫画家なりの読解力が必要だとインタビューで述べている。丁寧な読み込みの結果、ソラリスの海で起こる現象が、オリジナルの絵として細密に表現された。映画では表面的な「ソラリス学」の部分も省略されておらず、この出来ならレムも納得するだろう。

 一番印象に残ったのは、「残酷な奇跡の時代はまだ過ぎ去ったわけではない」という巻末の有名なフレーズが、本書では違った意味に感じられたことだ。小説版の持つ「人類の叡智」のようなニュアンスが薄れ、もっと個人の感性に近い感慨のように読めた。