キャメロン・ウォード『螺旋墜落』文藝春秋

Spiral,2024(吉野弘人訳)

写真:Moment/Getty Images All copyrights belong to Jingying Zhao
デザイン:城井文平

 著者は英国の作家。数学の学位があり、ITや出版業界で働いた経験がある。他にもペンネームを持ち、サスペンスやスリラーに分類される小説を書いている。本書はタイムループものなので読んでみた。物語は中年のシングルマザーと、その成人した息子との2つの視点で進む。

 ロンドンからロスに飛ぶ旅客機に母親が搭乗している。この便では息子が副操縦士を務めているが、自分が同乗することを告げていない。数ヶ月前に父親の消息を巡って深刻な対立があり、わだかまりが解けていなかったからだ。ところが、到着の間際になって異常事態が発生する。機体のコントロールが失われ、墜落は避けられないと思われた直前、時間が1時間巻き戻ってしまう。一回だけではなく何度も何度も。しかも、繰り返し間隔はあるルールに従って短くなっていく。

 この密室劇とは別に、息子のロスでの父親探しがエピソードとして挟まれる。その正体は、事故の原因ともなる意外な結末とも結びついていく。

 他でも書いたが、タイムループはもはや説明抜きのアイデアとなった。本書でも、タイムリミット・サスペンスにおける時限爆弾と同程度の扱いだ(言葉の意味を知らない人は少数なので)。ただ、ゲーデルの時間的閉曲線という考えをとり入れたのはSF的で面白いが、それならループ内側の機内と外の(すべての)世界は連動しているのではないか、この結末は多世界の一つに過ぎないのではないか、などちょっと気になる点はある。