眉村卓『幻影の構成』小学館

装丁:おおうちおさむ 山田彩純(ナノナノグラフィックス)

 P+D BOOKS版の眉村卓作品はこれで4冊目になる。原著は、1966年に早川書房の《日本SFシリーズ》の一環として書き下ろされたものだ。作家専業となった翌年に出たもので、著者の第2長編かつ3冊目の単行本になる。

 2020年の世界、主人公は第八都市の住人だった。市民はイミジェックスと呼ばれる情報端末に支配され、ふだんの行動や購買意欲までコントロールされている。不満を感じた主人公は、支配する側の中央登録市民に成り上がろうとする。しかし、ある事件をきっかけに、社会の隠された一面を知ることになる。

 (書かれた当時から)60年後が舞台。その社会は、複数のコンツェルン(財閥企業)によって支配されている。第八都市は、中央本社の統制下にある植民地的な地方都市である。その支配の要となるのがイミジェックスで、絶え間ない囁き(ツィート?)によって、コンツェルンの従順な生産者/消費者となるよう人々を操っている。しかも、より上位の支配者がいて……。

 煌びやかな中央と寂れた地方、情報を握る企業に権力が集中し、コンピュータによるネットが人心や欲望を制御する。形態こそ違うものの(上位の支配者もソフト的なバグだと思えば)、これらはすべて現実化したとみなせるだろう。主人公はイミジェックス・システムの破壊を試みるが、大規模な反攻にはイミジェックスを利用するしかないと悟るようになる。だが、それでは自由から遠ざかるばかりだ。単純な抑圧と革命の物語ではないところが、いかにも著者らしい。