
扉イラスト:富田童子
扉デザイン:大野リサ
著者は1984年生まれの米国作家。本書はヒューゴー賞、世界幻想文学大賞を受賞、MWA賞(エドガー賞)も最終候補となった注目作である。2014年に『カンパニー・マン』(2010)が紹介されているが、これもフィリップ・K・ディック賞とエドガー賞を受賞するなど、ジャンルを跨いだ評価が特徴の作家といえる。
海岸にほど近く、帝国の辺境にあたる都市で死亡事件が発生する。技術省の高官が富豪の屋敷で変死したらしい。新任の捜査官助手を務める主人公は、捜査官に代わってその現場を確認しに行く。だが、死者は文字通り木に殺されていた。
舞台となる神聖カナム大帝国は、4重にもなる頑健な長城に守られている。それは、毎年雨期に上陸するリヴァイアサンと呼ばれる巨大な怪物に備えるためだ。しかし過去に何度も防壁突破が発生し、最前線の州では甚大な被害がもたらされている。映画「パシフィック・リム」(2013)とか《進撃の巨人》(2009~21)のようだが、これは物語の背景にある特殊設定に過ぎない。
危険な世界を維持するために、登場人物の多くは生物的な改変処置を受け、それぞれが特殊な能力を保持している。主人公の場合は記憶術で、見たものを何一つ忘れない(写真記憶能力を持つ)記銘師だった。これを魔法として扱わず、医学/生物学的な説明で通しているのが面白い。SFジャンルの読者でも違和感なく読めるだろう。とはいえ、本書のスタイルはあくまで硬派のミステリで、ノイズ(音や光)を嫌い自室からほとんど出ない探偵(捜査官、少佐)が驚異的な推理力を発揮、少年のような容貌の助手(といっても司法省中尉)が決定的な証拠を探し出す。犯人の行動には個人的な怨恨だけではない社会的な背景もあって複雑に絡み合う。
事件は二転三転四転しながらも一応の解決を見るものの、この設定はまだいくらでも展開の余地がありそうだ。詳しく書かれてはいないが、政府高官は女性が多数派、探偵も女性、元帥はどうやら巨人らしい。もともと3部作を予定しており(5部作に拡張されるとも)、原著は第2部まで刊行済み。乞う続刊。
- 『タイタン・ノワール』評者のレビュー