ロブ・ハート&アレックス・セグラ『暗黒空間』東京創元社

Dark Space,2024(茂木健訳)

カバーイラスト:新井清志
カバーデザイン:岩郷重力+W.I

 先に『パラドクス・ホテル』の翻訳が出たロブ・ハートと、ミステリ作家のアレックス・セグラによる合作長編。メールとGoogleドキュメントを組み合わせた環境で書いたようだ。惹句に「『スター・トレック』+ジョン・ル・カレ」とあるので、宇宙もの+エスピオナージュということになる。

 人類の命運をかけた恒星間探査船が、未知の惑星に接近しようとしている。しかしその直前、宇宙船には深刻な事故が発生する。しかも厳重な警報システムは稼働せず、危うく手遅れになるところだった。なぜシステムは作動しなかったのか。一方、探査船を送り出した月面都市では、緊急信号を受信したにも関わらず、その情報は幹部により握りつぶされてしまう。

 物語は探査船のパイロットと、月面都市の元諜報員という2人の主人公を中心に進む。パイロットは政治家の子息で、親の力で成り上がったと思われていて、何かと自信が持てない。諜報員は麻薬取引に関係した懲罰で現場から外されている。だが、探査船の任務に絡んだ政治的陰謀が次第に姿を現す。命じられるばかりだった2人の役割も大きく変貌していく。

 本書のオチにもつながる大ネタは、SFでは古典的でよく見かけるものだ。とはいえ著者は2人ともミステリ/スリラー畑の人なので、その本体部分は深掘りせず、むしろ二転三転の展開部分に力を注いでいる。荒廃した地球の状況など、今日的な社会情勢も取り入れているが、そこはお話の彩り的な扱いだろう。