林譲治『地球壮年期の終わり』早川書房

Cover Illustration:緒賀岳志
Cover Design:岩郷重力+Y.S

 林譲治によるファーストコンタクトテーマの書下ろし長編。ハヤカワ文庫の《知能侵蝕》は2030年代末が舞台だった。本書でも、2034年とごく近い未来に異星人による侵略が起こる。

 北アフリカ、スエズ運河近くの紛争地帯で、有志国連合のトラック運転をしていた主人公は、車列がドローン攻撃を受け砂漠の中で孤立する。そこで、宇宙人と称する巨体の何ものかと遭遇する。宇宙人は悪びれもせず、自分たちは地球を侵略するために来たのだと説明する。

 この物語には3人の主役級が登場する。1人が運転手だった男、1人が地中海の民間病院船で救助ヘリパイロットを務める女、もう1人はある組織を裏切ったため日本国内を逃亡中の女。3人は日本人なのだが、その出自には共通点があった。

 飄々としてユーモラスでもある宇宙人たちは、侵略の意図をまったく隠さない。宇宙人と地球人とでは、特に情報処理能力に圧倒的な格差があり、地球の兵器や科学技術では太刀打ちできないのだ。それでも、なぜか彼らは即時の侵攻を試みようとはしない。どういう意図があるのだろうか。3人は、それぞれの立場で宇宙人と(自動翻訳機を介して)対話しながら、とある場所で出会うことになる。

 主人公たちはパレスチナと深く関係している。本書の背景にはガザで起こっているジェノサイドや、アメリカ主導の難民強制移住計画がある。あの戦争により、民族や文化の対立、狂信的なナショナリズムやテロ、軍事力による暴力や強制など、現代の人間社会の持つ非寛容さ/不完全さがあからさまになった。そういった諸々を超越する存在/装置として登場するのが宇宙人なのだ。しかし、彼らはクラークの『幼年期の終わり』のように、地球を指導するオーバーロードとはならない。理由は物語の最後で語られる。標題の『壮年期の終わり』もそのことを暗示するのだろう。