大森望『21世紀SF1000 PART2 』早川書房

カバーデザイン:早川書房デザイン室

 本書は、本の雑誌に毎月連載されている「新刊めったくたガイド」の本文(2011年2月号~2020年2月号)と、年ごとの概要及び「SFが読みたい!」掲載のベスト投票結果を合わせたものである。別途出た『2010年代SF傑作選』をデータ面で補完する内容になっている。無印(PART1)が出たのは2011年12月なので、8年2か月ぶりの続刊。

 2011年は東日本大震災、小松左京が亡くなった年になる。バチガルピ『ねじまき少女』、「五色の舟」を含む津原泰水『11 eleven』が出た。2012年は円城塔が『道化師の蝶』で芥川賞を受賞、『屍者の帝国』も刊行。ハヤカワSFシリーズも復活して、SFの夏(東京新聞記事)となる。2013年は酉島伝法『皆勤の徒』が出る。この年は日本SF作家クラブ50周年となり、関連行事が開かれたり記念書籍も出た。2014年はSFマガジンの700号と特集が設けられたが、ミステリ・マガジンとともに翌年以降の隔月刊化が決定。2015年はケン・リュウ『紙の動物園』がブームを呼び、伊藤計劃作品のアニメ化がらみで特集、書籍も出た。2016年はアルファ碁が人間に勝った年、ピーター・トライアス《ユナイテッド・ステーツ・オブ・ジャパン》が話題になった。2017年はSF大賞、山本周五郎賞などを得た小川哲『ゲームの王国』が登場、ついに「伊藤計劃以後」の時代は終わったとされる。2018年は円城塔『文字渦』山尾悠子『飛ぶ孔雀』飛浩隆『零號琴』が出て、ハーラン・エリスンやル・ヴィンの死が報じられた。2019年は夏に出た劉慈欣『三体』が空前のブーム、中国SFに関心が集まり、小川一水《天冥の標》が完結した。その一方、眉村卓、横田順彌らの訃報を聞くことになる。

 10年代は小松、眉村といった第1世代作家の物故、SFマガジンが隔月化したという後退はあったものの、創元SF短編賞、ハヤカワSFコンテスト、星新一賞など公募型新人賞が開始され、歴史ある文学賞を受賞するような大型新人が数多くデビューした。文学とSFとの差異が無くなってきたのだ。また中国SFなど、英米に偏る翻訳出版にも変化が見えてきた。そういう俯瞰的な流れが本書を読むことで分かる。

 さて、本書をデータ面で見るとどうなるか。大森望の「新刊めったくたガイド」は採点があるのが特徴である。星5つを満点として10段階で評価するのだが、星1.5未満は記載がないので実質8段階とみなせる。自著(編著、訳書を含む)や評論書は採点に含めない原則があり、全715冊が対象になっている。円グラフはその内訳を表している。著者の意図的には星5~4.5が必読(19%)、星4が推奨(30%)、星3.5は読む価値あり(31%)、星3以下では水準作~それ未満(20%)という分類だろう。全SF網羅といってもまったくダメな作品は選ばれないだろうから、採点の分布は上位側に偏っており正規分布にはならない(下図参照) 。

 棒グラフは年別の評価のばらつきを表している。年によって対象となる本は62(2016年)~93冊(2013年)とばらつくが、標準偏差を取ると各採点とも年ごとにおおよそ2割程度のばらつき範囲に収まる。つまり、変動が2割以内であれば特異ではないことになる。その尺度で見る限り、10年代のどの年にも大きな差異はないだろう。ただ星5と4.5、星4と3.5の間には逆相関があり、例えば2018年のように4が多い年は3.5が少なく、19年は逆になっている。これを作品の揺らぎとみなすか、評価の揺らぎとみなすかは微妙なところだろう。