藤井太洋『ワン・モア・ヌーク』新潮社

カバー装画:星野勝之
デザイン:新潮社装幀室

 途中から電子版のみとなった雑誌yom yomに、全9回連載された(隔月刊で2015年10月から2017年9月)著者の最新長編である。連載開始時点では5年後だった物語の設定が、今ではもう「現在」となってはいるものの、著者得意の近未来スリラーの範疇とみなせる内容だろう。

 シリアにあるISの地下基地では、密かにウランの濃縮が行われていた。調査に入ったIAEAの査察官は、証拠隠滅の爆破に巻き込まれるが辛うじて生き延びる。1年半後、オリンピック開催を控える東京で、外国人犯罪を追う2人の刑事がテロ犯の疑いがある女性を追っていた。だが、そこから3Dプリンタを使いこなす著名なアーティストの存在が浮かび上がる。一方、新たなテロを目指すISのメンバーは、東京に低濃縮のままでは爆弾にならないウランを持ち込んでいた。いったい、何をしようというのか。

 従来の作品と違って、警官が主要な登場人物になっている(といっても警察小説ではない)。IAEA、CIA、ISと国際的な登場人物を配し、3Dプリンタや原爆、放射線についての詳細な説明を加え、かつ、著者が小説を書きだしたそもそもの動機をベースに据えた作品である。二手に分かれた犯人側、追う方も警察とCIAグループの二手に別れ、お互いの出方を探りながら駆け引きをする。「核爆発」の成功/阻止を巡る物語は、著者の作品中もっとも手に汗握るものといえるだろう。

 SFはよく予言小説とみなされるが、この「予言」は物語中に書かれた年号には依存しない。例え100年前を舞台にしても、100年後の設定でも、今現在の問題が投影されている点では同じなのだ。だから、2020年が舞台であっても、本書には「予言」が書かれている。核テロ、核事故は将来のどこかでカジュアルに起こる。正確な情報を持って動かなければ+全面廃棄に向かっていかなければ、危険を避けることはできない、と。

 政府や米軍がかかわるという点で本書は「シン・ゴジラ」風だが、政治家はほとんど登場せず、政府機能や都民の脱出などのシーンはあまり描かれていない。個性を持った登場人物たちのせめぎ合いにフォーカスされる。パニック/デザスター小説ではないからだ。その点はすっきりしている。