
装画:緒賀岳志
装幀:岩郷重力+W.I
2年前に《創元海外SF叢書》で翻訳が出た長編『精霊を統べる者』(2021)は、『SFが読みたい! 2025年版』で海外編1位を獲得するなど人気を博したが、シリーズ《精霊を統べる者》(著者に拠ると「デッド・ジン・ユニバース」)の前日譚/派生作品はその前にも書かれていた。もともとは1冊の本ではなく、電子版や小冊子版などでばらばらに出ていたものだ。それを、日本オリジナルで1つにまとめた中短編集が本書である。
カイロの死せる精霊(ジン)(2016)巨大なジン、マリードが死体で発見される。調査を担った魔術省のエージェントとカイロ警察警部は、現場で謎めいた象形文字と奇妙な羽根を発見する。手がかりの意味を探り、墓場に赴いた彼らは意外なものを発見する。
ハーン・アル=ハリーリの天使(2017)ある天使の元に、1人の娘が奇跡を求めてやってくる。切実な願いだったが、叶えるには代価が求められた。それは人界のお金では賄えないものだった。
空中ケーブル〇一五号憑依事件(2019)魔術省の若手エージェントと新人の2人組は、市内に張り巡らされた空中ケーブルの車両に、正体不明の憑きものが宿ったと知らされる。しかし、それは当初予想した「超自然存在」とは違っているようだった。
長編と主人公が同じなのは冒頭の表題作のみで、あとは同一設定での別エピソードである。「空中ケーブル〇一五号憑依事件」は同じエージェントでも同期の仲間が主人公(男性)で、エジプトでの女性参政権運動のただ中という背景で物語は進む(リアルな歴史では1956年に成立)。この連作の魅力は近代化された魔法世界(産業革命が中近東/アフリカの魔術によってエンハンスされている)による、非西洋的なカイロの日常にあるだろう。登場人物にコミカルな要素があるのも共感を得やすいポイントになる。表題作の主人公は女性だが、エキゾチックに見えるからという理由で、山高帽にスーツという西洋風の男装で活躍する。
本書は概ね犯人捜しのミステリタッチといえる。とはいえ超自然現象が絡むので、読者が犯人を予測するには無理がある。その分、捜査のロジックをいかに飽きさせずに見せるかが重要になる。まず異質な都市のありさま、機械仕掛けの天使などの大仕掛けが目を奪う。次に20世紀初頭の改変歴史(というには大胆すぎるが)に、現実とのリンクを感じさせリアリティを増している。このスタイルの集大成が、次の『精霊を統べる者』に生かされているのがよく分かる。
- 『精霊を統べる者』評者のレビュー