馬伯庸『ドラゴン・メトロ―地龍鉄道―』早川書房

龙与地下铁,2016(大恵和実訳)

イラスト:影山徹
デザイン:岩郷重力+T.I

 大作で知られる馬伯庸によるSFファンタジイ。200ページ余の短い作品で、大長編の合間に「筆休めの長編」を書くという著者からすれば短編並みの小品なのかも知れない。どういう位置付けのお話かは、詳細な訳者解説が付いているので参考になる。最近の著者は歴史「社畜もの」(上司に無茶振りされる下級官吏のアドベンチャー)を中心に執筆しており、SF的要素が強い作品は2010年代終わり以降書いていないという。本書はその最後の時期の作品である。

 大唐帝国の長安へと向かう母子を乗せた馬車が襲撃を受ける。襲ってきたのは孽龍(げつりゅう)と呼ばれる邪気の魔物だった。龍の形をしているが霧のようで固まっていない。馬車は破壊されるが、子どもは天策府空軍の飛行士に助けられた。その子どもこそが主人公で、長安を守護する大将軍の息子だった。

 長安には地下を結ぶ交通網が敷かれている。走るのは列車ではなく巨大な龍である。龍たちは生まれてすぐに捕らえられ、輸送のために使役されているのだ。主人公はその境遇に理不尽さを感じる。一方、龍を捕獲する行為は孽龍を生み出す要因ともなっていた。その悪霊を退けるために、長安城には神武軍(禁軍=近衛軍)、天策府(空軍)、白雲観(道門=道教)がある。しかし、物理的な兵器に頼る前2者と魔術的な法力に拠る後者とは、防御の主導権を巡って対立していた。折しも都を滅ぼすかもしれない脅威が迫っていた。

 10歳の子どもが主人公のジュヴナイルではあるものの、難読漢字(原語ではそうでもないのか)を駆使する中国流エンタメにはかわりない。ファンタジイと現代のテクノロジーが同居し、史実がシームレスに溶け込んでいる。シンプルではあるものの、権謀術数のマウント合戦もあるし、クライマックスは呆気にとられて笑ってしまう。もっと長く読みたいが、このコンパクトさにも味がある。