
カバー写真:Denis BorisovBC Dushmantha~skye.gazer Getty Images
5月に出た本。ソウル生まれの韓国系作家(国籍や生年は明らかにしていない)シルヴィア・パクによる、英語で書かれた初の長編である。現在はカンザス大学で創作講座の助教を務める。ケリー・リンクやテッド・チャンらを輩出したクラリオン・ワークショップ(合宿制創作講座)出身、短編がJ・J・アダムズの年刊SF傑作選に採録されたこともある。本書は700ページ近くある大作で、アザーワイズ賞(旧ティプトリー賞)を授賞した注目作である。これが一般向けの新潮文庫から(比較的)リーズナブルな価格で出るというのはすばらしい。
統一戦争後の韓国ソウル、ロボット犯罪課の刑事に行方不明のロボットを捜索して欲しいとの依頼が来る。迷子ロボットは10歳の少女の姿をしている。近未来の韓国ではイマジンフレンド社がロボット市場を席巻、ただその少女はあまり人気がない古い機種だった。所有者は北朝鮮出身の芸術家だと分かる。
登場人物が多い。車椅子に乗る中国人の少女、サマースクールに集う友人たち、中にはロボット廃棄場に住む北朝鮮少年もいる。刑事は戦争帰りでサイボーグ化手術を受けている。深刻な戦傷のためだった。刑事の妹はイマジンフレンド社で技術の要職に就いているが、独自に調整したアンドロイドをパートナーとしている。父親は創業者の一人ながら、会社からは離れ、親子関係はうまくいっていない。そういう複雑な人間関係が物語と絡み合う。
この時代でもロボット(AI)は人権はない。戦争では人と見分けがつかないことが利用され自爆兵器となった。人に限りなく近いものとなっているのに、意図的に壊しても殺人ではないし(ペット並みの保護はある)、人身売買には問われない。そこには倫理的な問題がつきまとう。ロボットが生活の中に溶け込んだ社会で、人と機械との関係はどうあるべきか。対ロボットの共感を問う中に、父子の葛藤という(いま風にアレンジされてはいる)テーマも含まれており、重層化されたお話となっている。初長編でここまで書ける筆力には感心する。ただ、ロボットの意識が錯覚なのか/本物なのかに踏み込むこの結末には、(SF読者としては)もう少しロジカルな説明も欲しいところ。
- 『vN』評者のレビュー