高丘哲次『約束の果て 黒と紫の国』新潮社

装画:九島優
装幀:新潮社装幀室

 日本ファンタジーノベル大賞2019の受賞作である。紛糾したと評判の選評は小説新潮2019年12月号でしか読めないのだが、あいにくこの号は小野不由美特集などがあり、プレミア価格の古書でしか入手できない。とはいえ、そういう批判があったにせよ、受賞するだけの読みどころは十分にある。著者はゲンロンの大森望 SF創作講座第2期(2017)出身者でもある。

 古代伍州(ごしゅう)に、壙(こう)と臷南(じなん)という二つの国があった。大国壙には万能の帝王螞帝がおり、臷南には奔放な王女瑤花がいた。あるとき、壙から一人の王子が送られてくる。王子は数年の間臷南に滞在し祭祀を執り行うのだという。しかし、それには別の意図があった。

 この物語には、何層にも重ねられた複雑な構造がある。まず最初に中国を想起させる架空の「伍州」があり、その下に歴史上存在しないとされる「壙と臷南」がある。この二つの国は小説と偽史に表われるだけなのだ。そこに、謎を解くべく旅に出た現代の日本人と遺物を託した伍州人との物語、さらには壙を創始した螞帝の物語、臷南の女王と壙の王子の物語、伍州内部の動乱の物語などが重なり合う。

 復活後の日本ファンタジーノベル大賞は今回で3回目になるが、フィクションの上にフィクションを重層化する構造という意味では、もっともチャレンジジングな内容といえる。特に神話時代のお話はファンタジイ色が色濃く、それと現代の物語とのあいだに懸隔があるからだ。ただ、もし現代パートが無ければ、本書はフラットなファンタジイとなり新規性が失われる。不可欠な要素ではあるだろう。気になるのは、異様に凄惨な創始者の物語で、何らかの風刺が込められているのかもしれない。