アナリー・ニューイッツ『タイムラインの殺人者』早川書房

(註:この書籍はFREE PREVIEWに対応していません)

The Future of Another Timeline,2019(幹遙子訳)
カバーデザイン:川名潤

 著者は1969年生まれの米国作家、編集者、ジャーナリスト。ノンフィクションの著作も多く『次の大量絶滅を人類はどう超えるか:離散し、適応し、記憶せよ』(2013)は邦訳がある。先ごろ紹介された『空のあらゆる鳥を』のチャーリー・ジェーン・アンダースらと、SFブログサイトio9を立ち上げた創設者でもある。最初の長編がラムダ賞(多部門に渡る賞だが、SF・ファンタジイ・ホラー部門)を受賞、第2作目の本書もローカス賞の最終候補となっている。

 その世界には何億年も前から、時間旅行を可能にする〈マシン〉が存在する。何ものが作ったのかは分からないままだ。人類はその時々のテクノロジーを使って〈マシン〉を操作し、時間旅行を行ってきた。主人公たちは2022年から過去に戻って研究活動をしているが、それは表向きで密かに〈ハリエットの娘たち〉という歴史改変(編集)を工作するグループを作っている。

 〈ハリエットの娘たち〉とは、実在した奴隷解放運動家ハリエット・タブマン(リンク先は映画)に因んだグループだ。史実では当時(19世紀)女性参政権はないが、この歴史=タイムラインでハリエットは上院議員になっている。しかし、妊娠中絶禁止法があり女性の権利は未だに十分ではない。〈娘たち〉は権利を高めた新たなタイムラインを作るため活動しているのだ。その一方、制限を強めたい〈コムストック〉派の反動グループも暗躍する。

 物語の主な舞台は2022年、1992年(主人公が個人的に関係する、重要な事件があった時期)、1893年(コムストックによる権利制限が強められた時期)の3つ。歴史的背景を持つ女性の権利に関する物語の一方、主人公には隠された殺人という他人に打ち明けられない秘密があった。どういう副作用を生み出すか分からない歴史編集と、理由が何であれ殺人は許されるのか、という2つの葛藤が物語に奥行きを与えている。大きな(集団による)事件と個人的な事件が絡み合う展開は、盟友の書いた『空のあらゆる鳥を』と共鳴し合うものを感じる。