ヘンリー・カットナー『ロボットには尻尾がない』竹書房

Robots have no tailes,1952(山田順子訳)

装画:まめふく
デザイン:坂野公一(welle design)

 ルイス・パジェット名義で出版された同題の短編集である。翻訳にあたり、著者名がカットナーに、収録順序が発表年代順に並べ替えられている。ルイス・パジェットはカットナー&C・L・ムーア共同ペンネームの一つだが、本書はカットナー単独で書かれたものらしい(原著のムーア序文による)。カットナーは1915年生まれ、多彩なペンネームを使い分けブラッドベリらを指導するなど活躍するも、1958年に若くして亡くなっている。日本で単行本や文庫が出たのは1980年代までで、あとは散発的に短編が紹介されるのみだった。本書は人気シリーズ《ギャロウェイ・ギャラガー》をまとめたものだ。

 タイム・ロッカー(1943)酔いが覚めると実験室の片隅にロッカーが置かれていた。それには入れたものの形を変形させる効果があるらしい。
 世界はわれらのもの(1943)二日酔いで目覚めると、窓の外でうさぎのような小さな生き物が叫んでいた。「入れてくれ! 世界はわれらのものだ!」
 うぬぼれロボット(1943)テレビ会社のオーナーと称する男が、一週間前に依頼した仕事の成果を求めてくる。何かを提案したはずだが、まったく覚えがない。
 Gプラス(1943)裏庭に巨大な穴が空いている。実験室には得体の知れない機械があり、しかも警官までが会いに来ているという。
 エクス・マキナ(1948)* ギャラガーがいつものように酒を呑もうとすると、未知の生き物がその酒をさらっていく。動きが速すぎて目にも停まらない。
  *…初訳、他の作品も改題新訳

 主人公ギャロウェイ・ギャラガーは天才科学者なのだが、酔っ払わないとその才能(潜在意識)が目覚めない。ただ、酔いに任せて作った驚くべき発明品は、しらふだと動作原理どころか目的も分からないのだ。物語は、なぜこれを発明したのかを(しらふに戻った)自分が解明していくという倒叙型スタイルで書かれている。「Gプラス」などは、1つの謎だけでなく、何段階にもわたる重層的な謎が潜んでいる。どうなるか、予測不能のアイデアストーリーである。

 すべて、キャンベル編集長時代のアスタウンディングSF誌に掲載されたもの。カットナーが大量のペンネームを駆使して書いていたのは、専門誌の原稿料が安く、かつSF作家が単行本を出せない時代だったせいもあるだろう。多作ながら早逝したカットナーは、本国では高い評価を得られなかった(近年になって回顧的な傑作選は出ている)。草創期の1960年代からたくさんの翻訳がなされてきた日本でも、作品集となると総集編的なオリジナルの3冊だけである。36年ぶりに出た本書はとても貴重だ。

 本シリーズのキャラクタ(酔っ払いのマッド・サイエンティスト、同じく酔っ払いの父親、マスコットのような火星人、ケチな欲望に駆られる弁護士や金満家、シースルーのボディを持つナルシストのロボットなど)はとてもコミカルだ。サブスク方式のテレビとか、書かれた当時(TV普及以前の戦前)からすれば、かなり先進的なアイデアも含まれている。それでも、サイバーパンクとまではいかない。アメリカの60年代アニメを見ているようなレトロな気分になる。どこにも存在しない、懐かしい未来のコメディなのだ。