林譲治『コスタ・コンコルディア 工作艦明石の孤独・外伝』早川書房

Cover Illustartion=Rey-Hori
Cover Design=岩郷重力+Y.S

 8月に出た本。本年完結した著者の《工作艦明石の孤独》(全4巻)の第3巻に、「コスタ・コンコルディア」という章がある。ある星系の惑星軌道上で、130年前のものと思われる植民船コスタ・コンコルディアが発見されるというエピソードだ。結末にも関わる謎なので詳細はシリーズ本編を読んでいただくとして、本書はさらに後の時代を描いた独立編である(登場人物の重複もない)。

 小さなM型恒星を巡る惑星シドンは気候が厳しく、200万ほどの人口しかない辺境の植民星である。ただ、そこにはタイムワープにより3000年前に漂着した先住民がいた。新たな植民者たちは、先住者を既に文明を失った野蛮人として差別的に扱ってきた。そこで、過去の文明観を一新する発見が報告される。現地の弁務官は、統治機構への影響を考慮し調停官の派遣を要請する。

 調停官は先住民の科学者と共に調査を進める。伝説に過ぎなかった過去が明らかになれば、先住者の地位も見直されることになる。しかし、植民者たちの現地自治政府や、守旧派の議会とは思惑が交錯する。先住者にも、長年の同化政策を否定する発見に拒否反応を示す一派がいるのだ。

 入植する3000年も前から生きる先住者は、植民者から見て異星人とも等しい民と映るだろう。牧眞司は本書を「文化人類学的な視座」を持つ作品としている。同様に、中村融はかつて眉村卓『司政官 全短編』(2008)を、ル=グィンやビショップの諸作と並ぶ「異星文化人類学SF」と評した。《司政官》と本書には、異文化との共存という共通のテーマがあるのだ。さらに、植民星を統治する弁務官やエージェントAIを唯一の部下とする調停官は、ロボット官僚(人間の部下はいない)を率いる司政官を思わせる。どちらも地球圏(人類圏)の権威や圧倒的な武力を背景に植民星を統治するが、かえって反乱を引き起こすこともある。

 眉村卓はその葛藤を司政官の内面を描くことで表現した(司政官は孤独な存在である。味方はロボットだけで、人間的な苦しみを共有できる相手ではない)。一方、林譲治の場合はもう少しテクノクラート(=技術官僚)寄りの視点で描く。問題を切り分け、技術的に収拾するまでの思考プロセスが物語になっている(従って、個人の苦悩は顕著には表れない)。その点は、谷甲州《航空宇宙軍史》に登場する軍人のふるまいに近いように思われる。