久永実木彦『わたしたちの怪獣』東京創元社

装画:鈴木康士
装幀:岩郷重力+WONDER WORKZ。

 5月に出た本。久永実木彦には《日本SF大賞において「短篇で最終候補」「雑誌掲載のみで単行本化されていない作品が最終候補」という、ふたつの〈史上初〉が大きな話題となった》(井上雅彦)という、いささか分かりにくい(本人の責任ではないが)紹介文がある。第42回日本SF大賞で「七十四秒の旋律と孤独」が、第43回では本書の表題作「わたしたちの怪獣」が最終候補に挙がったことを指す(どちらも候補となった時点では単行本化されていなかった)。とはいえ、これは偶然ではないだろう。少なくとも、一定以上の支持者がいるからこそだ。

 わたしたちの怪獣(2022)妹が父を殺してしまった。わたしは死体を古ぼけたセダンのトランクに積み、怪獣が蹂躙する都心に向けて埼玉から車を走らせる。
 ぴぴぴ・ぴっぴぴ(2019)隔離された郊外のタイムマシン施設で単調な非正規労働に就くぼくは、改変前の違法な動画をアップし続ける投稿者に魅せられる。
 夜の安らぎ* 中学生の頃、学友の血を盗んで舐めたことが忘れられない主人公は、病院で出会った男が吸血鬼であると思い込む。
『アタック・オブ・ザ・キラートマト』を観ながら* ふと入った映画館で伝説のカルト映画が上演される。ところが衝撃音とともに上映は中断、外では不穏な動きが。
*:本誌初出

 一連の作品には〈パイプス〉と呼ばれるYouTube風のSNSや、人気配信者の奈良坂ダニエルなど共通するアイテムも登場するが、世界設定が同じというわけではない。ただ、ネット炎上とDVで家庭崩壊した高校生、幼いころ父を亡くし仲間から軽んじられる男、両親がおらずイジメを受けている高校生、母子家庭で育ちパワハラに切れた会社員と、主人公たちは家庭環境に問題(少なくとも幸福だとは思っていない)を抱えている。行動の動機も、事件や事象(怪獣の出現、タイムトラベル、吸血鬼、ゾンビ様の怪物)の異様さより、あくまで個人的な(ありそうな)トラウマに起因している。それが、異常設定にもかかわらず、登場人物たちに共感を感じさせる理由だろう。

 それにしても『アタック・オブ・ザ・キラートマト』(1978)を詳細にアップデートした巻末作には感心する。この映画は、公開当初からB級を下回る意図的なZ級(と呼んだかどうかは覚えていないが)カルト映画として有名だった。今なら、リアルなゾンビ映画としてハマる設定なのかもしれない。いやまあ、キラートマトはそもそもロメロ版元祖ゾンビのオマージュともいえるが。