Genesis等のアンソロジイと紙魚の手帖に掲載された《ときときチャンネル》をまとめた短編集である。シリアスなSFアクション《神々の歩法》や、アニメ化もされたホラー色の強い《裏世界ピクニック》と違って、こちらはライト感覚のSFバカ噺風連作となっている。
#1【宇宙飲んでみた】(2019)まずカップの中に宇宙が入っている、これを飲んでみる。まがいものではなく、汲んできた超臨界流体の宇宙なのだ。
#2【時間飼ってみた】(2021)同居人の部屋の中からパタパタと何かが走る音がする。カメラを持ってドアをあけると、そこには結晶化した時間が…。
#3【家の外なくしてみた】(2022)外ロケをしてみることにした。そこで家バレしないためにカメラにスクランブラーを付けてみると、なぜか外が外ではなくなってしまう。
#4【近所の異世界散歩してみた】(2023)前回の失敗からスクランブラーを改良して、外のスーパーまで行ってみる。すると、実際の近所とは違うものが映っている。
#5【エキゾチック物質雑談してみた】(2023)通販で「わけありエキゾチック物質詰め合わせ六種」が届く。物性が異なる物質とはいったい何か、しかもわけあり。
#6【登録者数完全破壊してみた】(2023)登録者500人を目指してエンドレス配信を決意、でも細々とした発明品の紹介ではなかなか増えない。それならいっそのこと。
配信初心者(YouTuberとは書かれていない)の主人公が同居人のマッドサイエンティストと共に、登録者数1000人を目指してチャレンジするという設定。同居人は天才科学者なのだが、その発明の源はインターネット3と呼ばれる超次元ネットからの断片的な情報なのだ。インターネット3は今あるインターネットやWeb3.0とも全く異なるもので、バビロニア・ウェーブ(堀晃)とかへびつかい座ホットライン(ジョン・ヴァーリイ)のような超文明が創った情報ネットに近い。確かにそれなら何でも可能になるだろう。
時空の非局所性、光円錐と非因果領域、ミンコフスキー時空、ホログラフィックな宇宙のザッピング、量子もつれ、最後にはグレッグ・イーガンの塵理論(『順列都市』)まで出てくる。とはいえ、難しい理屈が書いてあるわけではなく、抽象的な概念をさらりと流し、会話だけの流れですいすい読めるお話になっている。そしてまた主人公と科学者(どちらも女性)の関係(なぜ同居しているのかなど)や出自(どこに住んでいて何をしているのか)など、「個人情報」はほぼ書かれていない。まさにネット時代のホラ話、バカ話/噺(オチはないがコント的な結末)の世界が楽しめて良い。
- 『裏世界ピクニック』評者のレビュー