SFマガジン2022年4月号と2024年4月号のBLSF特集掲載作に、新たに書下ろし2作、同人誌からの転載1編を加えたBL小説アンソロジーである。全部で12作品(コミック2作を含む)の中短編からなる。著者も、BLでスタートした直木賞作家の一穗ミチから、初チャレンジに近い(と思われる)小川一水、BLレーベルのジャンル小説を主力とする書き手やベテラン同人作家までと多岐にわたる。
榎田尤利「聖域」2 LBS(ロイヤル・バトラー・システム)を開発したグループのチーム長はある性癖を抱えていた。その私邸に見知らぬ青年が訪れる。
小川一水「二人しかいない!」1 星間貨客船が異星人ハトラックにハイジャックされ、女装した学生とスーツの男だけが無人船に拉致される。なぜ2人なのか。
高河ゆん「ナイトフォールと悪魔さん 0話」(2024)仮想の島の中で会う2人は、ナイトフォールと悪魔さんと名乗り合ったが正体は不明だった。(コミック)
おにぎり1000米「運命のセミあるいはまなざしの帝国」(書下ろし)小さな探偵事務所に高校生の少年が人捜しを依頼してくる。友人が森に行ってしまうのだという。
竹田人造「ラブラブ⭐︎ラフトーク」2 対話型個人推進システム=ラフトークの勧めに従っていれば、十分な満足が得られるはずだった。しかしそれも先週までのこと。
琴柱遙「風が吹く日を待っている」1 1960年、北インドのカシミールにあった難民キャンプで男が赤ん坊を産む。オメガバースがはじめて明らかになったのだ。
尾上与一「テセウスを殺す」2 「意志の中核」だけを移していくことが可能になった時代、富裕層だけでなく犯罪者もその技術を使い、検察の特効執行群が追う。
吟鳥子「HabitableにしてCognizableな意味で」1 1980年代から2050年代まで、2人の男の子から始まる関係の変遷がおよそ10年単位で描かれる。(コミック)
吉上亮「聖歌隊」(書下ろし)海から押し寄せてくる齲(むし)の群れを迎え撃つために、唱年(しょうねん)たちの聖歌隊は「歌」を武器に戦う。
木原音瀬「断」1 離婚を契機に大手を辞め、小さな不動産屋に勤める主人公は夜中に奇妙な音が聞こえるようになる。そこになれなれしい青年も加わり事態は混乱する。
樋口美沙緒「一億年先にきみがいても」2 遠い惑星で1人暮らしていた主人公は、銀河ラジオに投稿した音楽がきっかけで巨大な宇宙船を招くことになる。
一穂ミチ「BL」1 ある国の児童養護施設で、親元から離された天才児たちが訓練を受けていた。ペアとなった2人は他国で暮らすことになるが、秘密の計画を温めていた。
1:SFM2022年4月号掲載、2:SFM2024年4月号掲載
SF縛りなので異形の性が描かれたものがいくつかある。おにぎり1000米のフェアリー(セミとニンフ)、琴柱遙のαとΩ(オメガ)など6つの性の組み合わせ、樋口美沙緒のベイシクスとフィニアスは、人口激減を男による妊娠で解決する(風刺的な一面を持つ)作品だ。AI絡みのコメディとした榎田尤利と竹田人造、ネタ的なギャグの小川一水と木原音瀬、BLをあえて背景に下げ物語を前面に押し出した尾上与一、吉上亮、一穂ミチらの作品も面白い。高河ゆんと吟鳥子のコミックは、BL要素のエッセンス的なもの(コンデンストBL)といえる。
少年愛や耽美小説、やおいを経てジャンルを成すまで、BLは独自の歴史を刻んできた。徳間キャラ文庫、SHYノベルス、リブレ、エクレア文庫、白泉社花丸文庫、新書館ディアプラス文庫と、本書収録の著者が書くBLのレーベルも数多くある。ただ、評者が手に取る機会は(よほど話題性がない限り)あまりなかった。両方の趣味があれば別だが、読み手からすれば隔絶されたジャンルだったわけだ。とはいえ、BLSFもSFBLもサブジャンル的には存在しうる。交流は常にあったほうが多様性を楽しめて良いだろう。
- 『アステリズムに花束を』評者のレビュー