ニック・ハーカウェイの翻訳はこれで4冊目(別名義を含む)になる。ただ、ジャンルミックスの作家でもあり(ミステリやNVマークだったので)、SFマークとしては本書が初めて。探偵ものなのだが、設定がSFになっているからだろう。訳者が「こんなに愉しかった仕事は何年ぶりだろう」と書いたリーダビリティ抜群の作品だ。
タイタン絡みの事件が起こる。タイタンとは小柄でも身長2メートルを優に超える巨人のこと。状況からして自殺のように見える。それでも、特権階級に関わりたくない警察は専門家の探偵に調査を依頼する。すると、出入りした来訪者から、ある人物が浮かび上がってくる。
舞台は、アメリカとも欧州とも分からない、ギリシャ風の地名を持つ架空の都市である。明らかにされないものの数十年後の未来のようだ。タイタンとは不老化治療を受けた人々を指す。その薬〈T7=タイタン化薬7〉を使うと体細胞が若返り、併せて再成長が始まるのだ。回数を重ねるほど、身長が伸び体重が増す(訳者指摘のようにこれを連想する)。技術を独占するトンファミカスカ一族は、寿命を支配する超エリートの立場にある。物語は、探偵の遭遇するタイタンたちの秘密を巡って展開していく。
いまAIと並ぶ注目の技術は、生命科学で脚光を浴びる不老化=アンチエイジングだろう。もっとも、ハイテク詐欺が横行する割に決め手となるブレークスルーはなく、できたとしても富裕層にしか恩恵がない(と思われている)。つまり、T7ができたら世の中は変わり、格差はますます広がる。そこに「長生きするほど巨大化する」というギャグを大まじめに取り入れたのが最大のポイントである。常人の何倍も生き、風変わりで威圧的なタイタンの怪物ぶりが読みどころになる。
- 『世界が終ってしまったあとの世界で』評者のレビュー