2020年の第8回ハヤカワSFコンテストで、竹田人造と共に優秀賞を受賞した十三不塔の書下ろし長編。竹田人造は2年前に受賞第1作を書き下ろしているので、これで両者とも並んだ形になる。受賞作ではキャラの造形に関する指摘があったのだが、それに応えたのか、本書ではキャラ主体の作品を仕上げてきた。
軌道エレベーターを舞台とする配信番組、恋愛リアリティショー「ラブ・アセンション」が開催される。1人の男=クエーサーに対して12人の女性が自己アピールで競い合い、エレベーターの階層を上がるたびに脱落者が決まるというルールだ。女たちには特異なスキルがあり、それに劣らぬ個別の動機がある。さらにクエーサーには隠された過去が、またスタッフにも表に出せない思惑がある。しかも、正体不明の地球外生命まで関係しているらしい。
各登場人物の独白やインタビュー、放送を意識した女たちの小競り合いや、裏方のスタッフ同士の軋轢などで物語は波乱含みで進む。地球外生命は、ミステリ要素を高める小道具として扱われる。この設定で書くのだからラブコメに違いない、と思い込むと意表を突かれる。
リアリティショーは台本なしなので本物に見えても、実際は演出のある虚構(フィクション)にすぎない。それは出演者も視聴者も分かっている(が、あえて種明かしはされない)。本書の場合は、この作品自体が最初から最後までリアリティショーというのが特徴だろう。もちろん小説なのだから虚構は当然なのだが、登場人物(出演者だけでなく制作側まで)の心理描写やセリフ回しも、小説中に置かれたショーの一部のようになっている。ここまではショー=偽物、ここからはリアル=本物(配信番組の外)といった境界があいまいなのだ。不思議な印象を残す作品である。
- 『ヴィンダウス・エンジン』評者のレビュー