ロジャー・ゼラズニイ『ロードマークス』新紀元社

Roadmarks,1979(植草昌実訳)

装画:サイトウユウスケ
装幀:坂野公一(welle design)

 G・R・R・マーチンによるHBOドラマ化が契機でこの新訳が出たようだ(ただ、発表から4年が経ったが、《ハウス・オブ・ザ・ドラゴン》で佳境に入っている制作者マーチンの状況を見るに、直ちにドラマ化が始まるとは思えない)。サンリオ文庫版が出て44年になる。当時人気絶頂だった(が、1995年と早くに亡くなった)ゼラズニイの残香をよみがえらせながら読むのも好いだろう。

 この世界のどこかに〈道(ロード)〉がある。それはふつうの高速道路のように見えるけれど、さまざまな時間と空間を自在につなぐものだ。主人公はダッジのピックアップ・トラックに乗って、道路をひた走る運び屋。相棒は詩集の形をし、時に詩を朗読するコンピュータである。しかし彼には敵がいる。差し向けられた〈黒の十殺〉が隙を狙って命を奪いに来る。

 たしかにシリーズ化に向いた作品だと思う。時空自在のタイムトンネルのような設定ながら、旧式のピックアップ・トラックで走るというポップさがある。未来や過去、ギリシャや中世など行き先は自由自在、敵もガンマン、拳法の達人からロボット戦車、ティラノサウルス、マーチンが得意とするドラゴンまで(表紙イラスト参照)何でも出てくる。

 ゼラズニイには、文体やテーマも含めたスタイルへのこだわりがあった。とにかくかっこいいのだ。けれど、多くの翻訳が出た1980年代でも、スタイルだけでは長編は苦しいとの批判がくすぶっていた。本書もエピソードが短く小気味良い一方、全体を通した印象はかなり冗漫だ。つまり、ストーリーを追うのではなく、個々のスタイルを楽しむべき作家だったのである。

 ゼラズニイで新刊入手可能なのは、中短編集『伝道の書に捧げる薔薇』(1971)と、クトゥルーもの長編『虚ろなる十月の夜に』(1993)だけになった。解説でも書かれているが、最初に読むのならスタイリッシュさのテンションが切れない(往年の活力がある)中短編集の方を推奨したい。

 付記:今日届いたLOCUS誌の訃報欄で、ゼラズニイの息子でSF作家でもあるトレント・ゼラズニイが亡くなったことを知る。父親よりも若い48歳だった(父のトリビュート・アンソロジーなどを出していた)。