著者は1994年から活動を続ける韓国の作家、映画評論家。顔や経歴などを一切出さない覆面作家でもある。これまで短編の翻訳はあったが、本書は長編初紹介となる(最初から文庫SFで出る韓国作家としても初)。軌道エレベータを巡る巨大企業内の暗闘を描きながら、200ページ余(400枚)とコンパクトにまとまった作品だ。
インドネシアに近い島国パトゥサンに、韓国のLKグループが軌道エレベータを建設する。主人公はグループ会社の対外業務部長だが、実際の仕事は事業の妨げとなる人物を排除する汚れ仕事だった。先住民のパトゥサン解放戦線が活動しているのだ。そんな中、目立たない経歴の一人の新入社員が気になる動きをする。
カウンターウェイトとは、軌道エレベータの(地上側とは)反対に置かれたバランス錘のこと。エレベータ側のワイヤ重量を支えるため、それなりの質量を要する。本書では文字通りの意味と、暗喩が込められている。主役は実は軌道エレベータではなく(という点では、十三不塔『ラブ・アセンション』と同じ)、それを取り巻くLKグループのキーマンたちなのである。
対外業務部は、同じ荒事が仕事の保安部と仲が悪い。逆に社外のセキュリティ会社とは相互依存の関係にある。そこに現会長や社長、研究所所長、故人となった会長やその娘が絡み、やがて過去の事件の真相が明らかになっていく。この時代(150年後?)では、社員は〈ワーム〉と呼ばれるナノボットを脳内に保持していて、業務の補助とセキュリティ保持に使っている(会社に操られている)。創業者一族の権力が強い韓国の財閥でのパワーゲームと、こういうガジェットの組み合わせが面白い。ソフトさが特徴だった既訳の韓国SFとはひと味違う、韓流エンタメドラマの雰囲気がある。
- 『派遣者たち』評者のレビュー