キム・チョヨプ、デュナ、チョン・ソヨン、キム・イファン、ペ・ミョンフン、イ・ジョンサン『最後のライオニ 韓国パンデミックSF小説集』河出書房新社

팬데믹: 여섯 개의 세계、2020(斎藤真理子、清水博之、古川綾子役)

装幀:川名潤

 昨年末に翻訳が出た韓国のパンデミックSFアンソロジイである。6作家の書下ろし6作品を収める。日本でも昨年『ポストコロナのSF』が出ているが、同趣旨の内容で必ずしも現実のコロナ禍そのものとは関係しないところも同様である。

 キム・チョヨプ「最後のライオニ」遠い惑星系を巡る宇宙居住区に古い機械たちが生き残っていた。訪れた主人公は機械のリーダーからお前はライオニの再来だと告げられる。
 デュナ「死んだ鯨から来た人々」昼の世界と夜の世界の狭間にある海で、遊弋する巨大な生き物に乗って少数の人々が暮らしていた。
 チョン・ソヨン「ミジョンの未定の箱」主人公は人影の見えないソウルから徒歩で南に向かう。その途上、廃墟となった建物で奇妙な立方体の箱を手に入れる。
 キム・イファン「あの箱」効果的なワクチンができず外出禁止が続く社会では、抗体のあるポランティアの活動によりなんとか生活が維持されていた。
 ペ・ミョンフン「チャカタパの熱望で」歴史学科では隔離研修というものが行われる。外部と遮断された研修室の中で論文を書かなくてはいけないのだ。
 イ・ジョンサン「虫の竜巻」温暖化が進み毎年虫の群れが新たな病を運んでくる世界で、主人公は同居してみようと思う人と知り合う。

 韓国ではSFがプロパーとして成り立つのが遅かった事情があり、本書でも作家は20代後半(キム・チョヨプ)から40代前半(キム・イファンら)と平均年齢は日本に比べれば若い。そのためなのか、閉じ込められた世界=閉塞感からの脱出をテーマとした作品が多いようだ。

 本書は3部構成で作られている。第1章「黙示録」では遠い未来の異星が舞台となり、第2章「感染症」では感染ただ中の社会が描かれ、第3章「ニューノーマル」は病が日常化した時代の物語が、それぞれ2作品ずつ置かれている。

 機械が宇宙ステーションで人間の再来を待ちわびる「最後のライオニ」、箱が幸福だった過去を象徴する「ミジョンの未定の箱」は、それぞれ出口がない袋小路である。その一方、「あの箱」や「虫の竜巻」では、孤独だった主人公がパートナーを見つける、ささやかだが希望のある明日が示唆される。コンパクトで読みやすく共感の持てるアンソロジイといえるだろう。