A・J・ライアン『レッドリバー・セブン:ワン・ミッション』早川書房

Red River Seven,2023(古沢嘉通訳)

カバービジュアル+デザイン:岩郷重力+M.U

 著者は1970年生まれの英国作家。10年ほど前にアンソニー・ライアン名義で『ブラッド・ソング』(3部作の第1部)が紹介されている。著作の大半はファンタジイだが、その執筆の合間にあえてペンネームを変えて出したSF長編が本書。

 ふと目覚めると、主人公たちは船の上にいる。しかし断片的な記憶はあるものの、自分の名前すら思い出せない。剃られた頭には覚えのない手術痕があり、そして、デッキには死亡後間もない死体がある。ここは一体どこなのか。

 レッドリバーとは文字通りの赤い川のこと。セブンとは主人公たち7人を指し、なぜか著名な作家名(ハクスリー、コンラッド、ジーン・リース、ゴールディング、シルヴィア・プラス、ディキンスン、ピンチョン)がコードネームのように割り当てられている(作家名と登場人物の役割には、深い関係はないようだ)。男女7人(冒頭で1人は亡くなっている)が、一つの使命を担って赤い川を遡っていく物語なのだ。

 一見デスゲームを思わせる滑り出しで、帯にはサバイバル×ディストピアとあり、両方の要素は確かにあるが、どちらともちょっと異なる展開になる。『最後の宇宙飛行士』や、《サザーン・リーチ》に近いお話だろう。得体の知れない異形の世界を、限られた情報だけを頼りに手探りで進んでいくところが似ている。しかも、この謎のチームには(終幕であきらかになる)重大なミッションが与えられている。2023年に読んだ中では一番と訳者が推奨する、一気読みエンタメ作品である。