
カバーデザイン:岩郷重力+S.KW
林譲治の書下ろし長編。創元SF文庫での書下ろしは初めてになる。これまで著者はハヤカワ文庫を中心に多くの宇宙ものを書き下ろしてきたが、どのシリーズ(あるいは単発もの)でも異星人(あるいはそれに相当するもの)とのファースト・コンタクトを主要なテーマとしてきた。本書も同様の流れをくむものだ。
一万光年もの彼方にある惑星カザン、文明の兆候を認めた人類は調査チームを送り込む。しかし750名を有した専門家の一団は一切の消息を絶つ。第二次調査隊は総員を5倍近くに増やし、武装した巡洋艦を伴う2隻の体制で、万全を期して向かうことになる。第一次隊生存者の救出と、カザンに存在するであろう文明の調査のためだった。
カザンの文明が観測の途上で沈黙したことは、残された無人探査機のデータで明らかだった。実際、惑星の表面は灰色の泥のようなもので覆われている。ところが、その中に都市のようなものや不自然な植生が発見される。さらに遭遇する異星人の姿は……。
オビックとかオリオン集団、ガイナスなど、毎回趣向の異なる異星人を登場させる著者だが、今回はさらに非人類、非生物的な存在が出てくる。レム的なのである。人間と似ているように思えても、それは異星の存在が人を高度に模倣しているのかもしれない(ディック的でもあるのだ)。とはいえ、知性とはそういうものなのかも、とも思える。ここから人間とAIとの関係をも含む、哲学的な考察も読み取れるだろう。著者の作風は、論理的で理路を重んじるものだ。反面、情感に乏しいのだが、本作のタイトルのような感傷を愉しむこともできる(その意味は結末で明らかになる)。