乾緑郎『私たちに残されたわずかな永遠』祥伝社

イラスト:ゴトーヒナコ

 乾緑郎の書下ろしSF長編。物語は2130年の月基地ルナアークと、教会暦918年の田舎町ドゥマレという2つの小さなコミュニティを並置して進められる。百年後の未来と、どことも知れない異星を描くという本格的なSFになっている。本文中のTANSTAAFLはハインラインからの引用とのこと。

 ルナアークには7000人ほどの居住者はいるが、18才未満となると百人しかいない。主人公の少女はそのうちの1人だった。ある日、あまり知らない男の子からオープンマイクのイベントに誘われ戸惑う。一方のドゥマレは炭鉱の町だ。主人公の少女は、鉱夫の父親と暮らしている。ただ、父が自分の本当の親でないことは聞かされていた。

 物語のプロローグで不穏な動きが伝えられる。月の生命線だった軌道エレベータが、核テロにより破壊されたというのだ。やがて、それは閉鎖環境の日常を揺るがし始める。ドゥマレにはアッザという蟻のような社会性生物の巨大な巣がある(アッザは大型犬ほどの大きさがある)。2人の少女という以外、どこにも共通点が見られないお話は、中ほどを過ぎたあたりで接点を持ち始める。用意されたネタの多くは宇宙SFでおなじみのものだが、閉ざされていく明日/拓けていく未来という対称形に主人公たちを置いた設定は面白い。

 オープンマイクのイベントでは、男(ギター)女(ボーカル)2人はシンディ・ローパー「タイム・アフター・タイム」を歌う。歌詞の「何度も何度も失敗して(踏み外して)も、それでも受け入れる」という雰囲気が、本書の物語に反映されているようだ。