佐藤究『爆発物処理班が遭遇したスピン』講談社

装幀:川名潤

 『テスカトリポカ』で第145回直木賞を受賞した著者の最新短編集。評者は佐藤究のよい読者とはいえないが、惹句に「ミステリ×SF×怪物」とあるので読んでみた。

 爆発物処理班の遭遇したスピン(2018)東京オリンピックを1年後に控えた鹿児島で、爆発物を仕掛けたという予告電話が警察にある。それは巧妙に仕掛けられた爆弾だったが、思いも寄らない原理に基づいて作られていた。
 ジェリーウォーカー(2019)2040年代、VRや映画で一世を風靡する著名CGクリエイターには、誰にも知られていない創作上の秘密があった。
 シヴィル・ライツ(2016)新宿にシマを持つ弱小ヤクザは、ささいな失敗で大きなケジメを背負わされる。
 猿人マグラ(2016)福岡の作家といえば夢野久作だ。けれど、地元民ですら誰も知らない。墓場愛好家の主人公は、子どもたちの間に広がる都市伝説猿人マグラと久作との拘わりを聞く。
 スマイルヘッズ(2018)画廊を営む主人公には裏の趣味がある。それはシリアルキラーの描く絵画などの芸術品を、金に飽かせず蒐集するというものだ。
 ボイルド・オクトパス(2018)引退した元殺人課刑事に連続インタビューする企画で、初めてアメリカの刑事に会う機会を得たライターは喜ぶが。
 九三式(2019)戦後すぐのころ、家族もろとも実家を空襲で失った復員兵が、高価な乱歩の古書を手に入れるため、進駐軍からの得体の知れない仕事を引き受ける。
 くぎ(2018)息苦しい家庭から抜け出そうとした男は、塗装業の住み込み社員になる。しかし、仕事先の民家で気になるものを目撃する。

 標題作はリアルな爆発物処理班の仕事の描写の中に、突然SF的なアイテムを紛れ込ませている。テロリストが使うにしては2019年は早すぎると思うが、ともかく意表を突くアイデアとはいえる。その点でいうと「ジェリーウォーカー」はオーソドックスなクリーチャー(怪物)ものである。

「シヴィル・ライツ」「猿人マグラ」は(怪物的)動物が絡むサスペンス、「スマイルヘッヅ」「ボイルド・オクトパス」は超自然的要素のないサイコホラーだ。「九三式」「くぎ」では、不幸な境遇の主人公がしだいにサイコパス的な事件に巻き込まれていく。

 ムック誌 幽 の夢野久作特集に寄せた「猿人マグラ」、小説現代の江戸川乱歩特集「九三式」は、それぞれのお題である夢野久作や江戸川乱歩作品に内在する、狂気やグロな世界を浮き彫りにする。著者の才能、特にホラー展開の巧みさを楽しめる内容だろう。