宇津木健太郎『猫と罰』新潮社

装画:はやしなおゆき
装幀:新潮社装幀室

 日本ファンタジーノベル大賞2024大賞受賞作。著者は1991年生まれで、2020年に第2回最恐小説大賞(エブリスタ+竹書房の合同企画)を受賞した経歴がある。

 どこかの地方都市に北斗堂という名前の古書店がある。そこでは、魔女と呼ばれる三十半ばの女が主を務めている。店の周りには何匹もの猫がいて、己(おれ)もまたその中の1匹である。まだ子猫だが、すでに『9つめ』の命を迎えていた。

 猫は9つの命を生きるので、この物語は9つの章に分かれて、それぞれの(必ずしも安閑ではなかった)運命が語られる。それと並行して、現在(=9つめ)の古本屋での主人と他の猫たちとの生活が描かれる。それぞれの猫は、前世で文豪たちに飼われてきた。己もまた、あの文豪と共に生きたのだ。しかし古本屋に入りびたる小学生の生活を知り、魔女の運命を聞いてから物語は大きく動き出す。

 恩田陸「タイトルがいい。シンプルながら、内容ともバッチリ合っている。(最終候補作)四作中、唯一、ユーモアが感じられた作品で、淡々とした文章に引き込まれた」
 森見登美彦「語り手の設定が面白いし、罰を受けた神様が営んでいる古書店という舞台も魅力的である。店に住みついている他の猫たちの来歴など、いくらでも膨らみそうな要素がちりばめられている」
 ヤマザキマリ「(物語の猫は)知性や理性に栄養をあたえるために働く“作家”という種がいることを知っている。(中略)人間社会だけではなく自分たちにも安寧と豊かさをもたらすという可能性を見通しているようでもある。(中略)時にはこうした内的な考察を促してもらえるファンタジーに出会えると心地よい」
(小説新潮2023年12月号)

 今回は選考委員の間で意見が割れた。特に物語の後半で、時を越えるお話のスケールが個人の問題に縮退してしまうのが難点だった。最終的には、温かさを感じさせるファンタジーであり、改稿の余地も考慮して本書が受賞作に選ばれる。実際、加筆訂正された本書では、そのバランスは良くなったように感じられる。

 現代的なDVや過去の人々が経験してきた苦難の歴史、そしてまた神の罰も描かれるが、それらは物語を紡ぐことで超越可能だと説く。人との関係を警戒し斜に構える主人公の猫(おれ)が、小学生(~大人)や店主と交流し気持ちを少しずつ変えていく過程も楽しめる。「文豪と猫」という一方的(作家は猫を溺愛するが、猫がどう思っているかは分からない)かつ情緒的なテーマに、新たな切り口を設けた点は評価できるだろう。