トリスタン・ガルシア『7』河出書房新社

7 Romance,2015(高橋啓訳)

装幀:川名潤

 著者は、1981年生まれの哲学者兼作家。サルトルやボーヴォワールがいるので、フランスで哲学者と作家を兼ねるのは、さほど珍しくないのかもしれない。本書は、2016年のリーヴル・アンテル賞を受賞した文学作品だが、多くの奇想/SF要素(具体的な作家や作品名が出てくる)を取り入れたエンタメ作品ともなっている。2段組500ページを超える大作で、前半が6つの中短編+後半が7つの章からなる短い長編という、二重構造を持つ7つの物語(Romance)になっている。物語は独立しており、ごく緩く関連し合ってもいる。

 エリセエンヌ:偶然耳にしたLICNとは何か。パリの郊外にある元修道院で、主人公はそれが命の年齢という薬物だと聞かされる。木管:マイナーなバンドリーダーの元に、古いテープを持ったファンが訪れる。音はかつて自分が書いたヒット曲そのものだったが、録音はもっと古いのだという。サンギーヌ:療養のため訪れた村で、美貌のスーパーモデルは異様なまでに傷を負った男と出会う。やがて男との関係が明らかになり……。永久革命:彼女は2つの世界の狭間を揺れ動く。1つは1973年に左派革命が成就した世界、もう1つは運動が衰退し反動化した世界。宇宙人の存在:〈仮説〉を信じ宇宙人を探訪する兄に同行する弟は、ピレネーの森の奥深くにまで足を踏み入れる。半球:同じ思想の者だけが別々のドームに閉じこもった世界。そこでは〈普遍主義者〉だけが運用の可否を判定ができる立場だった。
 第七(全7章の長編):鼻血が止まらなくなってパリの病院に運ばれた少年は、若い医師からお前は不死の存在だと告げられる。不死と言っても実際は何度も死ぬ。記憶を伴ったまま生まれ変わり、人生を再びやり直すのだ。それも7回にわたって。

 ある種のタイムマシン、タイムパラドクス的なオーパーツ、美が内在する醜悪なバランス、並行世界、UFO/UAP、ドームによる分断社会、果てしのない生まれ変わりループ、と続く。ファンタジイだからと説明を切り捨てず、これらの奇想に疑似科学的な(あるいは哲学的な)理由付けをするのが面白い。SF読者には受け入れやすいだろう。また『第七』では、同様の設定を扱うクレア・ノース『ハリー・オーガスト、15回目の人生』がループの保守的な側面を描くのに対し、不死により社会が変えられるのか/改善できるのかが愚直に問われる。主人公の高揚/希望から、絶望/悪意へと激しく揺れ動く心理が印象深い。